【書評】本を読みたくなる「知」の世界 『日日是好読(にちにちこれこうどく)マイニチアキズニホンヲヨム』 新船海三郎 著

 本書は、2020年から2022年前半期の2年半に著者が読んだ127冊の本のエッセイ集です。

 著者は「本が好き」と言っていますが、その読書数の多さにびっくりします。しかも一冊一冊と真摯に対話していることは素晴らしいことです。

 本書のエッセイの魅力は、単なる感想にとどまらず、コロナ禍、ロシアのウクライナ侵略、差別、貧困など世界と日本の激烈な「現代史」の中で、常に自分の生き方を鋭く問うていることです。

本の泉社 2022年
2500円(税込)
しんふね・かいさぶろう 1947年生まれ。文芸評論家。日本民主主義文学会会員、日本文芸家協会会員。『歴史の道程と文学』など著書多数。

 キム・ジナ『差別は悪意のない人がする』では、著者の中にある沈殿している無意識の差別について自問自答しています。

 きっかけは、箱根駅伝での監督車からの「ここで抜かないでどうする。男だろ、行け」という言葉に著者が「何とも思わなかった」ことです。

 川内有緒『目の見えない白鳥さんとアートを見に行く』では、著者の中にある障害者観が揺すぶられています。目が見えないのは「気の毒」という見方が間違っていたことに気がつきます。白鳥さんは目が見える人より絵の鑑賞力がすごいのです。

 著者は「戦争」についての問題意識が鋭く、本書には戦争に関する本のエッセイが多いのですが、熟考させられました。

 羽原清雅『日本の戦争を報道はどう伝えたか』では、著者は「戦争体験者が亡くなっていく現代に、戦争反対をどう生き生きと語るかは受け継ぐものの責任である」と指摘しています。

 紹介しきれませんが、エッセイ一つひとつに深い「知」の世界があります。

 「あとがき」で「コロナ禍では流れる『情報』よりも蓄えられた『知』のほうが信頼でき、支えになり、刺激になった」と述べていますが、本書を読むと、人生と社会の未来にとって本を読むことがいかに大事なのかが伝わってきます。

 本を読まない人生は輝きのないものだと思います。本書を刺激にして、著者の「本を読もう」「読んで欲しい」の言葉を実践してみませんか。

(柏木新・話芸史研究家)

〈2022年12月18日号から〉

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