全国的に病院で処方される医薬品の不足が起きています。10月19日、全国の開業医ら10万7千人が加盟する全国保険医団体連合会(保団連)は、厚生労働省に「医薬品の供給不安定を国の責任で改善することを求める要請書」を提出するとともに、実情を訴えて改善を求めました。医薬品不足の現場を取材しました。
保団連も厚労省要請
アレルギー性のじんましんやぜんそくを医師の処方薬でコントロールしている、都内23区在住の50代女性に話を聞きました。女性は「皮膚科で処方されているビタミンB剤はコロナ禍に入って以降、薬局で『製薬会社から入って来ないので処方できない』と言われて市販薬をすすめられました」と語りだしました。
今年8月末、咳込みがひどくて眠れず受診すると、薬局で「咳止めの在庫がないので、主治医と相談するから時間がかかる」と言われ、処方薬が変更されたと言います。さらに「9月に新型コロナにり患した際も咳止めがないとのことで処方薬の変更や、小児用の散剤が5日分ずつ処方されました。薬剤師に『咳がひどいなら市販薬もあります』と言われましたが、店頭では市販薬も欠品。ネット検索をしたら定価より高い印象だった」と振り返ります。
厚労省は「咳止めや去痰剤の在庫逼迫ひっぱくに伴う協力依頼」との事務連絡を出し、生産能力が約85%まで低下していることを認め、実質的に長期処方の制限に踏み出しています。
こうした医薬品不足は咳止めや去痰剤、ビタミン剤以外にも広範囲に起きており、医療の安定供給に影を落としています。保団連は▽患者・国民に医薬品供給不足の状況を周知し、処方変更などが起こり得ることを丁寧に説明すること▽薬価改定による供給対策▽製薬企業の製造に関する管理、監督を強化し、医薬品の製造、流通に関する政府の責任を果たすこと―などを求めています。
医薬品の国内製造に注力を
保団連の要請では医薬品の供給不足は①(新型コロナなどによる)需要増②原薬(有効成分)供給の不具合③製品自体の不具合-などによるものだといいます。
②については3年前ほどから全世界的に医薬品の不足が懸念される中で、保団連では国に対して国内での調達・製造に力を入れるべきだと積極的に発言してきた経緯があります。③についてはジェネリック医薬品(後発医薬品)の製造を主として担っている10社を超える企業が2011年以降、相次いで行政処分を受けていることが影響しています。ジェネリック医薬品の生産会社は中小規模が多く、そのため生産状態が回復していないのが実態です。
安心して処方できるように
細部小児科クリニック(文京区)の細部千晴院長は、「エリアによっては溶連菌感染症が増え始めています。小児の治療では抗生剤の投与が必要で、選択肢の一番がペニシリンですが先発薬が不足しています」と指摘します。
「ジェネリック医薬品は薬効成分は同じですが、基剤や添加物が違うと効き目が異なる場合がある。体が小さく、より影響を受けやすい子どもには臨床データがしっかりとしている先発薬を選択したいです。実際に皮膚疾患で使用したステロイド軟こう剤のジェネリック医薬品で、思った効き目が得られなかった事例がありました」と警鐘を鳴らしています。
さらに「現在、ぜんそく治療に欠かせないホクナリンテープや抗アレルギー剤なども不足してきました。政府は医薬品の安定供給のために、中小規模のジェネリック医薬品の製造会社への支援とともに、安心して処方できるようジェネリック医薬品の情報を開示して欲しい」と訴えています。
東京民報2023年11月5日号より