日本共産党が9月に発表した「経済再生プラン」が、反響を広げています。記者会見で同プランを発表した同党政策委員長の田村智子さん(同党副委員長、参院議員、衆院比例東京予定候補)に、30年に及ぶ経済の停滞と暮らしの困難を切り替えるプランのポイントと、経済再生への道を聞きました。
田村智子さんに聞く
ーこの時期に経済再生プランをまとめた問題意識は何でしょうか?
物価の急激な高騰が続くなかで、「暮らしが苦しい。本当に大変」という声が広がっています。しかし、いま政府や与党が行っている議論は、給付金をどうするとか、1年限りの減税など、一時的、部分的なものばかりです。
そうした一時的な対応ではもう限界で、暮らしが良くなるとは思えないというのが、国民の実感だと思います。経済が再生し、暮らしが良くなる希望が見えてくる、そういう緊急策でもあり、抜本策でもあるプランを示したいと、作成に取り組みました。
ー30年のスパンで日本経済をとらえています。
そこが、今回のプランの一番のポイントです。政府や国会での議論が一時的、部分的なものになっている理由も、この1、2年で起きた物価の急上昇やエネルギー・食料危機が、経済と暮らしの困難の原因だととらえているからです。
日本の経済を30年のスパンで見ると、長年にわたり賃金が上がらず、消費税増税や社会保障の切り捨て、教育費の負担増で家計消費が押さえつけられ、経済の縮小がもたらされ続けてきた。また、エネルギーや食糧の自給率が下がり続け、輸入頼みの経済をつくってきた。それらが現在の危機を作り出してきたととらえることで、どんな対策が求められているか、はっきりと見えてきます。
二重に奪われた家計の消費の力
ープランでは、三つの柱による改革(表)を掲げています。
経済のエンジンは、やはり家計消費です。この30年間、家計消費の力を奪ってきたものが何かを見ると、一つは収入が伸びていないことです。
実質賃金はこの30年間、アメリカやイギリスで1.5倍、ドイツ、フランスも1.3倍に伸びているのに、日本だけが伸びず、それどころかピークだった1996年に比べて年収で64万円も減っています。
働き方のルールをどんどん壊し、非正規の雇用を増やして、その非正規雇用は低賃金で不安定な働き方のまま置き去りにしてきた。それが家計の収入を低くおさえてきました。これを変え、人間らしい働き方への改革が不可欠です。
もう一つの改革が、家計消費の力を政治的に奪ってきた税・財政のあり方を変えることです。消費税の増税と社会保障の改悪、教育費の負担増が、家計のうち、消費に回せる部分の割合を減らしてきました。収入が減ったうえに、可処分所得が減らされ、二重に家計消費の力が奪われてきたということです。
ープランは、「社会保障は経済でもある」という視点を打ち出していますね。
プランでの新しい打ち出し方の一つです。
社会保障をめぐる歴史を少し長いスパンで見ると、70年代に革新自治体が全国にできるなかで、高齢者の医療費無料など、制度の充実が進みました。
それが80年代の臨調行革路線のなかで、「社会保障の充実は企業の税や保険料の負担を増やし、日本経済をだめにする」「社会保障の負担が財政を悪化させる」という攻撃の対象になりました。
しかし、社会保障が経済の邪魔になるという財界と自民党政治の言い分は、この30年間、経済が停滞し続けた実態を見れば、まったく逆だったことが分かります。
社会保障を充実させてこそ、家計が消費を増やすことができるし、医療や介護、子育てなどの将来の安心にもつながります。そうした安心がないために、収入を消費に回せず、日本の国民は他の国と比べても異常なほど、貯金をせざるを得なくなっています。
加えて、社会保障の支出は、多くが人件費として、その分野を支えて働く人たちの生活にまわります。年金も、そのまま高齢者の生活費となります。これらの支出が消費に回ることで、地域経済へと循環します。
社会保障の充実を求めること自体が、経済を循環させて元気にする道なのです。
国の根幹部分の輸入頼み変える
ー三つ目の改革は。
エネルギーや食糧という、国の産業や社会の根幹を支える部分の自給率が下がり続けている、そういう国であってよいのかという部分の改革です。
原発事故が起きたときに、本来は再生可能エネルギーへと大転換して、自給率100%を目指すべきでした。それを石炭火力や原発頼みにしてしまったので、輸入に頼らざるをえない。さらに気候危機ももたらします。
食料については、政府も、自給率向上という目標を持ち続けているのに、一度として達成せず、自給率も農業就業者も減り続けています。
エネルギー分野は新たな投資を呼び込む成長分野ですし、農業と合わせて地域からの経済循環をもたらす分野です。
ー税・財政改革をめぐっては、「積極的かつ健全な財政運営」を提起しました。
自民党などの一部には、国債をどんどん発行すれば、どんな政策でもできるという議論があります。安倍政権がべらぼうに国債を増やして、それを結果としては大規模開発と軍事費を増やすことに使った。こうした自民党政治がやってきた財政の浪費をただすうえでも、私たちは国債を安易に発行するという立場には立っていません。
消費税の減税や、社会保障と教育の充実のためにも、安定的な財源を増やし、お金の使い道そのものを見直すことが、絶対に必要です。
同時に、私たちは国債の発行そのものを否定する立場でもありません。コロナ危機の時には、国債も発行して、給付金など思い切った手立てをとるべきだという主張を、私たちは早くから展開しました。
災害やコロナ危機、物価高といった緊急策においては、国民の暮らしを守るために積極的な財政の対応をするべきです。
暮らしを応援する積極的な財政運営で健全な経済成長が出来れば、税収も増やし、長期的な視野をもって国の財政を健全化することができます。
加えていえば、国債に頼りすぎることは、やはり国民の不安につながっている面もあります。急激なインフレを引き起こす危険性もあり、安易に国債を増やすべきではありません。
実現へ連帯を広げる
ー前文でもまとめの言葉でも、プランの実現には国民の運動が不可欠だと呼びかけています。
例えば、消費税の減税一つとってみても、大企業への内部留保課税で中小企業支援の財源を生み出すことをとっても、大企業を中心とした経済界が猛烈に反対し、すさまじい抵抗が起こるでしょう。
最初にお話したように、このプランは抜本策であるとともに、「緊急策」です。提案することが目的ではなく、国民のみなさんとともに戦って、一つでも二つでも実現を目指していく、そのための政策です。
いま国民の状況を見ると、労働組合が近年になくストライキに立ち上がり成果を勝ち取っていることや、インボイス中止を求める署名が粘り強く続いていること、高学費や気候危機をめぐる若い世代の取り組みなど、各分野で大きな運動が起きています。これらの皆さんと連帯し、様々な分野の国民の運動が一致団結することで、抵抗を乗り越えて政治のゆがみを正してこそ、皆さんの願いも実現するんだと、たたかいを呼びかけていきたいと思います。