「当てなく退去、理不尽」 石神井駅前 再開発めぐる裁判が結審〈2024年2月18日号〉

 西武池袋線石神井公園駅南口西地区の再開発事業(練馬区石神井町3丁目地内)をめぐり、地権者と周辺住民11人が東京都を相手取り、再開発事業認可の差止めを求める「第2次石神井まちづくり訴訟」は8日、東京地裁(品田幸男裁判長)で第10回口頭弁論が開かれ、結審しました。

すでに多くの店舗が移転・閉店し、シャッター街となった石神井駅前=11日、練馬区

 判決日は5月16日に指定されましたが、都による権利変換計画の認可が1月25日に下り、2月末頃から区域内で解体工事が始まる予定。地権者には、3月15日までの明け渡しが言い渡されています。

 原告側は、裁判所が「処分等により重大な損害が生じる」と判断した場合、処分の執行などを一時的に停止する「執行停止」の申し立てを、早急に行う構えです。

 同再開発事業は、都市計画道路補助232号線の新設とともに、同駅南口前に高さ約100㍍の超高層ビルを建てる計画。すでに計画地内にある店舗などの多くは移転や閉店に追い込まれ、街は閑散とした状態です。

 住民らは2020年12月、地区計画変更決定の取り消しを練馬区に、再開発事業認可の差し止めを都に求める第1次訴訟を東京地裁に提起。しかし、組合設立認可に関わる認可申請書が提出されていない段階であり、地裁は時期尚早と判断して訴えを却下しました。

 閉廷後、原告訴訟代理人の尾谷恒治弁護士が裁判内容を解説。「このような事態(権利変換計画の認可による住民追い出し)が想定されていたからこそ、急いで裁判を始めたが、第1次訴訟は却下判決が下された。再開発組合設立認可の申請が受理されるまで訴訟を待たなければいけないという制度自体に、おかしなところがある」と指摘。「裁判所による執行停止の判断は、判決内容に近くなるだろう」と推測しています。

区の論理破綻に裁判官も困惑

 石神井公園駅周辺地区は景観を守るため、地域住民と自治体が約9年間にわたり議論を重ね、「地区計画」を決定。建物の高さを35メートル(例外規定で50メートル)に抑えるルールを設けたにも関わらず、区は住民への十分な説明がないまま地区計画を変更し、建物の高さ制限を撤廃しました。

 第2次訴訟は2022年9月、再開発組合設立の認可申請が受理され、事業が動き出す「時間とのたたかい」という緊迫した状況下で始まり、行政訴訟としては比較的早い進行で結審を迎えました。

 原告側は、「地区計画を変更すべき理由がなく、高さ規定撤廃の必然性がない」ことを主たる争点として主張。参加行政庁の区はこれに対し、▽補助132号線の整備完了予定▽商店街通りの街並み整備の計画検討▽西武池袋線の連続立体交差事業等の完了-といった、「高さ制限緩和の問題」とはおよそ無関係の主張を展開。当然、原告側は反論し、裁判官も「参加行政庁(区)の主張を理解しかねている」と区に釈明を求め、主張の提出を改めて要請する場面もありました。

 区は反論に対し、主張を変遷。地区計画変更の理由として、▽変更前地区計画決定後に補助232号線が具現化▽密集市街地等解消のための共同化の必要-など、後付けとも取れる論点にすり替えました。

 判決日が決まり、原告団長の清水正俊氏は、「ずいぶん先だと感じる。主張のやりとりは尽くしてきたので、裁判長はこちらの言い分も少しは分かってくれていると思う。結局、本論の判決には間に合わないため執行停止を求めるが、その判定がいつ出るのか分からない」と、淡い期待と不安をにじませました。

 明け渡しを迫られている地権者で原告の岩田紀子みちこ氏は、「約90年、この場所で3代、4代と歯医者を続け、地域医療に貢献してきた。自宅も同じビルにある。住む当てがなく、歯医者を移転する場所もない。すべてを失う」と、毎日眠れないほどの苦痛を抱えている現状を告白。「不動産鑑定士に頼むと、驚くほどの過小評価が明らかになった。権利喪失ですよね。都の収用委員会に鑑定評価書を提出しましたが、返事はまだ来ていない。それなのに期限までに退去しろと言われても、出られないでしょ。あまりに理不尽」と憤りました。

 

東京民報2024年2月18日号より

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