葛飾区の京成立石駅北口で進む、区役所の移転を伴う再開発事業をめぐって、葛飾区民241人が2月29日、不当に高い評価額で区が区庁舎のための建物床を取得したことで、7億円余りの区民の財産を損ねたとして住民監査請求を申し立てました。請求人らは、「区が主導して、住民の願いからかけ離れた再開発を進める街づくりのあり方を問いたい」と語ります。
立石駅再開発で賠償求める
立石駅北口には、安い値段で飲酒が楽しめる「せんべろ」の聖地とも呼ばれる飲み屋街がありました。再開発が始まって、飲み屋街の土地はフェンスで取り囲まれ、取り壊し工事が進んでいます。
計画では、同駅北口周辺に地上36階地下2階(高さ125メートル)の西棟と、地上13階地下3階(高さ75メートル)の東棟の二つのビルを建設します。このうち東棟の3階から13階に区役所が移転します。
住民が監査請求の対象としたのは、再開発区域に区が持っている土地の代わりとして、新たに立つビルの床を権利として取得する「権利床(けんりしょう)」の部分。区は新たな区役所の3階のフロアを、権利床として1平方メートルあたりの評価額98万8215円で取得しました。
他方、同じ東館の2階に入る別の事務所は、権利床を1平方メートルあたり45万2234円で取得しているといいます。
一般的に商業ビルの権利床は、階段やエレベーターなどを使わずに入れる1階が最も高く、階が上がるほど安くなります。にもかかわらず区が2階の2倍以上の評価額で3階の権利床を取得したことで、区の財産を不適切に処分したと住民側は主張しています。
代理人となった舩尾遼弁護士は会見で、「区が高い金額で床を買い取ることで、再開発を成り立たせる狙いがあるのでは」と推測。監査請求書では、2階部分の評価額との差額53万円あまりに、区が3階部分で取得した面積約1336平方メートルをかけた7億円余りを、損害としています。監査請求の結果によっては、裁判で争うことも視野に入れています。
各地に広がる「官製」再開発
代理人の加藤芳文弁護士は会見で、区が再開発事業地に多くの土地を持ち、補助金も多く支出していることから「実質的に区の事業ととらえている」として、「まだ使える区役所を移転し、多くの税金を投入する必要があるのか」と疑問を呈しました。
行政が公共施設のために床を大規模に買い取ることを前提とした市街地再開発は全国に広がっており、日経新聞は2023年8月から5回にわたって「民需なき官製都市」などのタイトルで、調査報道の特集を組み、その一つとして立石再開発も取り上げています。
市街地再開発についての国交省の一般的な説明は、複数の人が持つ土地の権利を集めて、高層ビルなど高度利用化することで、道路などの公共施設用地を生み出すものです(図)。もともと土地を持っていた人たちは、権利床を手に入れ、それ以外の保留床を売却することで工事費などの事業費を生み出します。
立石再開発では、区が新たなビルで権利床として取得するのは2247平方メートルだけで、保留床からその10倍以上となる2万7332平方メートルを取得して区役所として利用します。
本来、第三者に売却するはずの保留床を区が買い取ることは、再開発への「隠れた補助金」として機能することになります。
立石のような「官製」の再開発が各地に広がる背景には、再開発の際に巨大ビルを建てるデベロッパーが、確実に儲けを出そうと、行政に権利床や保留床を割高で買い取るよう求めることが指摘されています。
会見に出席した住民は、「庶民の街に見合わないような巨大再開発を区が主導して進めている。立石再開発は住民の意思を無視したまちづくりの象徴だ」と強調しました。
東京民報2024年3月10日・17日合併号より