専門家集団の破壊と侵食に 学術会議 法人化問題でシンポ〈2024年8月4日号〉
- 2024/8/4
- 教育
政府が日本学術会議を国から独立した法人格を有する組織に改編する方針を昨年12月に表明し、法改正の準備を急速に進めていることに対し、「学問と表現の自由を守る会」など、学者や弁護士らでつくる6団体が7月27日、「日本学術会議の法人化は社会と学問をどう変えるのか」を多角的に討議するシンポジウムを早稲田大学(新宿区)で開きました。
2020年に当時の菅義偉首相が学術会議会員候補のうち、6人の任命を拒否した理由はいまだに明かされず、学術会議のあり方を検討する自民党PT(プロジェクトチーム)は一方的に、会員選考や運営、評価、管理にわたって政界と財界の介入を許す法人化案を発議。政府は今年秋の臨時国会に、法案を提出するとみられています。
ノーベル物理学賞を受賞した、学術会議前会長で東京大学教授の梶田隆章氏は、会員任命問題から現在までの流れを説明し、「形勢が不利と考えた政府が、論点をずらす形で、学術会議のあり方問題が取り上げられた」と推察。政府に「学術会議、日本の学術を、より良くしようという根本的な考えが見えない」として、日本は政治的・社会的諸勢力からの独立性を保ちつつ、国際的な連携活動を通じて科学の共通認識を形成する機能を持つ「ナショナルアカデミーのない国になる」と危惧しました。
東京大学名誉教授の小森田秋夫氏は「法人化は独立性を高めるのか」をテーマに報告し、「法人化論は会員選考を含め、学術会議をコントロールする志向の延長線上にある」と発言。政府は財政基盤の多様化を、法人化の根拠のひとつに挙げていますが、「スポンサーからお金をもらって議論することで、利害関係者から自立した意見を述べることができるのか」と疑問を呈しました。
学習院大学教授の青井未帆氏の報告を、司会の三成美保氏が代読。「軍拡と学術」という観点から考察し、国家安全保障に組み込みを必要とする学術専門家集団への「破壊と侵食と捉えることができる」として、憲法が守る自由の問題に直結することを懸念しました。
任命拒否された一人、東京大学教授の加藤陽子氏はビデオメッセージを寄せ、「学問の自由、研究組織の自律性が確保されなかったことの帰結が、原爆投下」で「生き地獄だった」と説明。任命拒否の経緯に関する行政文書の開示を、国に求める訴訟に至った過程を解説し、法人化阻止のために闘う決意を述べました。
任命拒否された6人を支える弁護団の米倉洋子弁護士は、任命拒否の根拠や理由が分かる文書は、すべて「不存在」とされたままであることに言及。政府が提起している法人化案は、「任命拒否の制度化・合法化そのもの」だと、学術会議の変質を許さない意志を示しました。
最後に、東京農工大准教授の多羅尾光徳氏が「日本学術会議の法人化による権力介入に強く反対する声明」を発表しました。
東京民報2024年8月4日号より