今に通じる戦時下の演芸 反響呼んだラジオ特番 寄稿*出演した柏木新さん〈2024年9月1日号〉

 話芸史研究家で「東京民報」に「落語の歴史」などを連載してきた柏木新さんが8月9日のラジオ特別番組『終戦79年スペシャル 反骨の、漫才ユモレスク』(文化放送)と19日の『アーサー・ビナードラジオ ぽこり・ぽこり』(同)にゲスト出演し、反響を呼びました。柏木さんに出演の経緯やどういったことが語られたかを寄稿してもらいました。

出演時の写真。(左から)アーサー・ビナードさん、柏木新さん、水谷加奈さん=柏木さん提供

 アーサー・ビナードさんは詩人・随筆家で、戦争や平和、日本の文化などについて深い思いがあり、そのアンテナに私の著作『国策落語はこうして作られ消えた』(本の泉社)、『戦争と演芸 笑いは嫌われ、泣きも止められ』(あけび書房)が共鳴したのです。

 お会いすると意気投合。8月9日と19日の文化放送に出演することになりました。今年は終戦79年。2つの番組では共通してアーサーさんと私が戦争の愚かさと平和の大切さを語り合う番組となりました。

 9日『終戦79年スペシャル』では、漫才のリーガル千太・万吉を取り上げ、日本が侵略戦争を開始した1931年の満州事変後、落語・漫才など演芸への取り締りがされるようになった中でも、千太・万吉は軍隊を風刺する漫才をしていたことを、当時のSPレコードも放送しながら明らかにしました。

 1937年の日中戦争、1941年のアジア・太平洋戦争など戦争が激化すると、さらに取り締りが強化され、「リーガル」の名前は敵性語ということで「柳家」に変えさせられ、風刺の入った兵隊漫才は演じることが出来なくなりました。

浪曲・漫才も協力

 8月19日、『アーサー・ビナード放送ぽこりぽこり』では、アーサーさんと私が対談。アナウンサーの水谷加奈さんも加わり、戦時下の落語・浪曲・漫才・講談などが、国民を戦争に総動員するプロパガンダ(政治的意図をもった宣伝)の役割をさせられたことについて紹介しました。戦争遂行の為に、戦争とは真逆ののんきで平和な落語までもが戦争に協力させられたのです。

 その象徴が禁演落語と国策落語です。禁演落語とは戦争をしている時局柄、恋愛や男女のあれこれなどの噺(はなし)はけしからんということで、廓噺(くるわばなし)など53の演目を演じないことを決めたことです。アーサーさんは、「時局認識が足りないと言われたら、結構きつい言葉」と述べましたが、落語界は大変だったと思います。

 国策落語は政府・軍部の指導によって作られたもので、日本国民が戦争に協力するためにどういう暮らしをすべきかの新作落語でした。

 当時、膨大な軍事費を捻出するために、国民に「貯蓄・債券購入・献金」を強要しましたが、それに順応する「献金長屋」「貯金夫婦」などの国策落語が作られたことを、戦時下の国策落語のSPレコードも流しながら説明しました。

 国策落語はその他、兵隊の補給と喜んでお国のために死んでくれる人間を育てるための「産めよ殖やせよ」のスローガンに順応した落語や、防諜の国策のための「スパイ狩り」などの落語があったことを紹介しました。

 また、落語だけでなく浪曲や漫才、講談も戦争に協力させられたことを話し合いました。そこでは、女性浪曲師・二代目天中軒雲月の軍事浪曲「銅像を涙で洗う女 杉野兵曹長の妻」、松竹ワカナ(ミスワカナから敵性語のため松竹に)・玉松一郎の国策漫才「大東亜遊覧飛行」のSPレコードを紹介。

 私が「戦時下の演芸の話は現代に通じる問題」と述べると、アーサーさんも、「今日の時代でも深く考えない思考停止になるようなエンターテイメントもあるし、プロパガンダに見えてくるメディアの発信もありますね」と応じ、私は「いま大切なことは、戦争を起こさせない努力なのです」と強調しました。

 2つの番組の反応は大きく、文化放送や私のところに、「大変良い企画。とても勉強になりました。戦争はやってはなりませんね」「国策の落語、浪曲、漫才のレコードも流してもらったので、本を読む以上にリアリティがありました」「本当に今に通じることと思いました」などの声が寄せられました。

東京民報2024年9月1日号より

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