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- 街角の小さな旅56 一葉記念館と伝統工芸 最上層と最下層の社会を同時に生き〈2025年4月6日号〉
一葉記念館は、24歳余の短い生涯の間に22の小説と4千首をこえる和歌を世に送り出した樋口一葉が生活のため荒物雑貨・駄菓子店を開き、代表作「にごりえ」を書いた台東区竜泉にあります。(都営バス竜泉停留所徒歩3分・地下鉄三ノ輪駅徒歩7分)
一葉は幕藩体制の崩壊、天皇制支配のもとでの資本主義・近代化の道を歩みはじめた19世紀末、「おおつごもり」「にごりえ」「たけくらべ」「十三夜」などの代表作を「奇跡の十四ヶ月」と呼ばれた短い期間に創作しました。

この時期、日本は急激にすすめられた西欧化に対する反動として国粋主義が台頭し、旧幕藩領主などの華族や一握りの新興富裕層などが占める上層階層の間で、王朝文化としての和歌や紫式部などの物語が教養としてもてはやされていました。
またその一方で、全国新聞の普及や出版の隆盛のもとで西欧文化の影響を受けた自然主義やロマンシティズムが国民の間で受け入れられはじめていました。
一葉は華族や富裕層など上層の夫人や子女が通い「明治の宮廷サロン」といわれた歌塾「萩の舎」で王朝時代の物語や和歌を学び、やがて塾長の中島歌子の代理として源氏物語などの講師を務めるなど、上層階層の世界に立ち位置を定め、伝統的な和文を基本としつつ俗語を交えて文章化する江戸期の井原西鶴の文体とされる雅俗折衷体にくわえ、当時の人々が使っていた下町言葉や風俗などを取りこむことで「和文脈による最後の文語体」「日本文学史最後の、文語による作家」(井上ひさし)となりました。
一葉の作品には心地よいリズムとスピードがあります。それは一葉の文章には句点や行替えがなく一章が一つづりの文章となっていること、「たけくらべ」の冒頭の「廻れば大門の見返り柳いと長けれど」のように和歌の五・七音調でつづられていて、「にごりえ」の十二章の文章が庶民の間で暗唱されていたといいます。













