「負の連鎖」終わらぬ戦後 武蔵村山市 日本兵PTSDの資料館 加害と被害に向き合って〈2025年4月13日号〉

 武蔵村山市に、戦争による兵士などの心的外傷後ストレス障害(PTSD)をテーマにした小さな資料館があります。「PTSDの日本兵家族会・寄り添う市民の会」の代表の黒井秋夫さんが自宅の敷地に建てたものです。戦後80年を経て、ようやく光が当たりつつある日本兵が受けた心の傷の問題に、黒井さんは「国がきちんと向き合ってほしい」と話します。

 黒井さんの父・慶次郎さんも、第二次大戦に中国戦線で従軍しました。戦後の慶次郎さんは、定職につかず、近所付き合いも家族に任せ、無気力なままで、家族はずっと貧乏だったといいます。「ふがいない、情けない、こんな風にはならないと、ずっと思っていた父でした」(黒井さん)

父・慶次郎さんの従軍中のアルバムを手に館内に立つ黒井さん=武蔵村山市

 孫がビデオカメラで映した慶次郎さんの生前の映像にも、ピースサインをするよう声をかけられても、何の反応もせず、うつろな目を向ける姿が残っています。

 その一方、父の兄からは、「(慶次郎さんは)若い時は優秀で、将来が楽しみだった」と聞かされ、信じられない思いだったといいます。

 黒井さんに転機が訪れたのは、2015年に世界を回る「ピースボート」に乗船し、ベトナム戦争帰還兵でPTSDに苦しむアレン・ネルソンさんの映像を見たことでした。

 「自分の親父もそうだったに違いない、と一瞬で理解できました。戦争で壊され、別の人格になってしまったんだ、と。アメリカの映画などで、戦争のトラウマのことは知識としてはあったのに、それを父に結び付けて考えてあげることが、なぜできなかったのか」と振り返ります。

家族らが証言集会

 黒井さんは、自分以外にも元日本兵のPTSDで苦しんだ人たちがいるはずだと、体験を語り合う場をつくる運動を始めます。2024年には、東京、大阪、千葉の3カ所で「証言集会」が開かれるまでになりました。

自宅の敷地につくった10平方メートルほどの小さな資料館

 証言の記録からは、家族に毎晩のように暴力や暴言をふるう、酒やギャンブルにおぼれる、仕事が続かず貧乏な生活を送るなど、元日本兵が受けた心の傷が、次の世代にもさまざま「負の連鎖」を生んでいる姿が浮かび上がります。

 黒井さんは「アメリカ軍の統計で、帰還兵の2~5割にPTSDが発症するとされています。アジア・太平洋戦争に従軍した日本兵800万人に当てはめると、300万人前後が発症したことになる。家族が5人いるとしたら1500万人に影響しており、まさに、国民的課題です」と指摘。「壮絶な虐待などを受けた家族にとっては、いまも戦争は終わっていない」と強調します。

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