異文化理解のフィールド 『ヘタレ人類学者、沙漠をゆく 僕はゆらいで、すこしだけ自由になった』 小西公大 著〈2025年6月15日号〉

 もみくちゃにされ、自分を壊してこい。そう鼓舞され若き人類学者は多動、不注意な特性を持ちながらインド社会に飛び込む。バックパッカーあふれるインドの街の喧騒、野良犬、バイクに行商人、強引な客引きに疲れ、ようやく快適なホテルに入るや引きこもり状態に。やがてトーチを売る青年に「そんなんで生活できるの?」と思うが彼の「オール・イズ・ウエル」という言葉に押され街へ出る。観光地である「黄砂岩」で冴えないガイドの青年に会う。「こんな悲しそうな若者に出会ったことがない」それがパーブーとの出会い。「コーダイ、僕と一緒に僕の村に行かない?」

 彼と家族の住む沙漠の少数民族の村に興味を引かれ、いつも悲しみと恐怖だけの彼の眼に少しだけ安堵の光が見えた時、僕は決意する。「人類学者は他者と共に歩む哲学的思弁でありその手段がフイールドワーク」だ。

大和書房 2024年
2200円(税込)
こにし・こうだい 1975年千葉県生まれ。東大、東京外大での研究員を経て2015年より東京学芸大学准教授。博士(社会人類学)

 沙漠の家は泥造りで隣家とは300㍍も離れている。あとは砂だけ。水は2㌔先に一カ所。トイレなど無い、紙も無い、少しばかりの水で、どうする? ここでのヘタレな僕の行動はすべて事件になる。なにせ、スイッチ一つで何でもできる電気まみれの国から来たのだから。

 僕の「あたりまえ」が通用しない。間違って怒られ、通じなくて悔しくて。このプロセスはお互いで、彼らも差異に驚愕し、でもつながろうとする。僕は揺らぎ、彼らも揺らぎながらともに世界を作ってゆく。これが「異文化理解」というフイールドワークなのか。

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