目の前の世界、無二の感性で ADHDの経験を映像化 映画「星より静かに」 君塚 匠監督〈2025年6月22日号〉

 高校時代、米国の脚本家宅にホームステイし、映画に魅せられた君塚匠少年は保護者と足しげく映画館に通い、大学で映画を学びました。石井聰亙(そうご)(現、岳龍〈がくりゅう〉)監督に憧れ、番組制作会社に入り映像を仕事にしますが、時はバブル時代、徹夜は当たり前の体力勝負の現場でミスを指摘され、疲弊し生きづらさを覚えました。心の治療を受けはじめ、55歳でADHD(注意欠陥・多動症)の診断を受ける中で感じ取った「差別・偏見」を唯一無二の感性で、映像化した君塚監督に映画「星より静かに」について聞きました。

 ―いよいよ21日公開です。監督自身がこのテーマを映画化しようと考えたきっかけ、注力したのはどのような点ですか。

 君塚 ADHDと聞くだけで特別な症状が見えていなくても、何かしらの偏見を持っている人がいます。例えば仕事が内定していたのに、僕がADHDと知りテレビ局の人から断りが入ったこともあります。非常に生きづらさと憤りを感じ、プロパガンダではない形にしたいと思いました。

きみづかたくみ 1964年11月29日生まれ。東京都出身。日本大学藝術学部映画学科監督コース卒業。株式会社フジテレビジョン、株式会社テレビマンユニオンでドキュメンタリーを中心に数々の作品を手がけ、実績を残す。映画『喪の仕事』(1991)で初の監督・脚本。以後、『ルビーフルーツ』(1995)、『激しい季節』(1998)、『おしまいの日。』(2000)、『月』(2000)など、計5本の劇場映画で監督・脚本。テレビではNHKドキュメンタリードラマ「小野田さんと、雪男を探した男」(2018年)で第44回放送文化基金賞奨励賞および第34回ATP賞奨励賞を受賞 写真・田沼洋一

 制作費用はクラウドファンディングで募りました。低予算で作ったのでメイクや衣装、照明もなく、ある意味異常な現場です。しかしカメラは3台用意して、自然な様子が撮れるように情熱を注ぎました。脚本も自分で書いたのですが、試行錯誤でした。撮影は8日間位で非常に短いものでした。

 ドラマパートとドキュメンタリーパートがあるので、俳優(プロ)と障害当事者と支援者(一般人)が同化するように気を使いました。ハプニングもあったのですが、面白い化学反応が得られたと思います。

 自分が出演しないと説得力に欠けるので出演しましたが、役者に芝居をつけて自分でも演じるのはグッタリと疲れました(笑)。

21日より新宿K’s cinemaから全国順次公開。監督も出演(左)=太秦(配給・宣伝)提供

 ―ハプニングや化学反応は、どのようなものでしたか。

 君塚 作中、就労移行支援事業所で男性が「ひとり、孤独でよかったかな」と言うシーンがありますが、本人の言葉です。こうした予想外の発言やコメントがありました。

 NHKはすごくて、ドキュメントとドラマという両方が入っているものを作りますが、ドラマと分かるようにきっちり分野が分かれています。

 僕は混在させるという点でぐちゃぐちゃに混ぜてしまって、誰が役者で誰が当事者なのかわからなくして、観る方に判断して欲しかった。思っていることを文字にして、それを映像にするのは相当難しい作業ですが、自然な形に持っていくために脚本は20回ほど書き直しました。

 ―一般的にドキュメンタリーや実際の出来事の作品は、説明などが多過ぎる気がします。

 君塚 僕と同じようなADHD、精神疾患、回復者、知的障害の境遇を作品にしても、「また(感動物語の)あれだよ」と思う人もいるでしょう。そういう意味でリアルを追求しました。

 作中、作業所でリンゴの袋詰め作業が上手くいっていると語るシーンを見て、「もう仕事もできない」と悲観的に思っていたのに「希望が持てた」と言ってくれた人が居ました。僕のキャリアの中で、作品で人間を勇気づけたりなどはあまりなかったので非常にうれしいし、カタルシス(心の中のネガティブな感情から解放され爽快感を得る)のようなものを強く感じました。

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