【読書 今月の本棚と話題】知的世界の思想と人間像 『『歴史とは何か』の人びと E・H・カーと20世紀知識人群像』 近藤和彦 著〈2026年5月24日号〉

 英国の歴史家E・H・カーの「歴史とは何か」はよく知られた名著である。本書は新版を翻訳した著者が「歴史とは何か」に登場する知識人の思想と人間像を、エピソードを織り交ぜながら紹介したものである。

 現代風の言い方では、カーを主役とすればそのスピンオフ版だ。著者は「おもしろいこと、すごいこと」を念頭に書いたというが、内容は重厚である。

岩波書店 2026年
3080円(本体+税)
こんどう・かずひこ 1947年生まれ。名古屋大学助教授、東京大学教授、立正大学教授を経て、東京大学名誉教授。著書に『イギリス史10講』『近世ヨーロッパ』など

 カーは「歴史とは歴史家と事実の間の相互作用の過程であり、現在と過去との間の終わりのない対話」という名言を残した。

 かつての英歴史学は大英帝国の栄光を叙述した内容が多かったが、20世紀に入りカーや歴史家アーノルド・トインビーらが主体的な構想力を重視する新しい歴史観を追求、歴史学での水準の高さは世界的な評価を受けた。欧州大陸から著名な知識人が英語圏に流入しことも貢献した。「英国の知的世界」は大変貌を遂げたと、著者は言う。

 本書は「歴史とは何か」に出てくる約20人の学者らの業績や経歴を紹介。カーによる論評や批判、学問上の対立などに加えて、各人の生い立ちや歓喜と失意、恋愛など知的エリートの人間模様も探求しており、本書の「おもしろさ」を特長づけている。

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