灯台形万華鏡を手に大熊進一さん |
渋谷駅近くのマンションの一室に「世界一小さく、日本一楽しい」と誇る、「日本万華鏡博物館」があります。「万華鏡」と聞いて、小学生のころに工作で作ったことや土産物屋に売られている、おもちゃを思い起こす人が多いかもしれません。放映中の人気テレビドラマ「JIN=仁=」(TBS系)の中では、新たな場面展開を暗示させる小道具として用いられ、ちょっとした話題にもなっています。同博物館を訪ね、大熊進一館長(61)に「万華鏡」の魅力について聞きました。
―万華鏡博物館をつくるきっかけは
90年1月に観光で訪れたハワイ・マウイ島で出会った万華鏡です。なんで、こんなに光輝くのだろう、今まで見てきた万華鏡とまったく違うと驚きました。その万華鏡がコレクション第一号になり、博物館を開く(98年)きっかけともなりました。コレクションの数は、今では1850点になります。
万華鏡は1816年、スコットランドの物理学者デビット・ブリュースターによって発明され、その3年後には、大阪で見られていたという記録があります。コレクションの中には、その当時の物もあります。ドラマJINの制作スタッフが、幕末の花魁が万華鏡を持っていてもおかしくないか、と時代考証に訪ねに来たこともありますよ。
今は芸術的な要素も強くなり、アメリカに100人、日本にも10人ほどの作家が活躍しています。
―万華鏡の魅力とは
過去も未来もない、今を切り取るおもしろさと不思議さにあります。万華鏡の映像は、オブジェクトという、さまざま色のビーズや色ガラスなどの組み合わせと、鏡による光の反射が織りなす模様です。筒を回すことで刻一刻と変化します。
例えば20種のビーズが入った万華鏡の場合、6秒に一回動かすとしても、同じ映像が現れるには4628億年以上、地球が誕生してからの歴史46億年の100倍もかかります。確率の問題ですが、一生かかっても、同じ映像を見ることはできないかもしれないのです。
万華鏡を神秘的なものとしてとらえたがる人たちもいますが、逆に、とても科学的で理路整然とした物です。
アメリカの作家スー・リオー作「シラサギ」(95年昨)。世界に20台しかありません(日本万華鏡博物館所蔵) |
そうです。万華鏡のいいところは、簡単にすぐに作れて、複雑な映像が楽しめることです。そして同じ物は二つとない。千変万化し、未来永劫続く。ビーズの色を一つ変えただけで色合いは変わります。作った物は、世界でたった一つの万華鏡です。
とくに子どもたちには、万華鏡を作ることを通して、何でもいいから、これから一生懸命になれるものを見つけてほしいと思っています。それでないと、ものづくり大国日本を支える人材は、いなくなってしまう。福島第一原発の事故対応を見ると、本当に心配になります。
そうするには子どもたちに、感動を与えることが大事です。万華鏡づくりは、いい機会になると思います。小学生が手で作っても、CG(コンピューター・グラフィックス)よりすごい映像を作ることができるのですから。
博物館には、修学旅行で地方から子どもたちが訪れたり、私が小学校などへ出張教室に出かけたりもしますが、子どもたちが、失敗をとても恐れているように見えます。でも万華鏡に失敗作はないのです。「変な映像がもし出たら、逆にすごいことかもしれないよ」と言ってあげるんです。
―小学校時代、私も学校で作った記憶があります
おそらく40代半ば以上の人は経験があるのではないでしょうか。今は、作る学校が少なくなっているようです。少し前になりますが、学校から1個200円の材料費で万華鏡を作らせてほしいという依頼がありました。それでは、よく反射する鏡も使えず、目の平均焦点距離20aの長さの万華鏡も作ることはできません。ぼやけた映像で輝かない万華鏡では、子どもたちに感動を与えることなんかできません。日本は教育にあまりにもお金をかけなさ過ぎます。子どもたちは、日本の未来を支える宝です。100数十億円の戦闘機1機分を教育にまわすだけで、きれいでびっくりするような万華鏡を、すべての小学生に作らせることができます。政府には人を大切にする発想に根本から変わってほしいですね。
大熊進一(おおくま・しんいち)さん
1949年埼玉県生まれ。立教大学卒。地方新聞記者、雑誌編集者を経て85年に企画編集制作会社ベアーズを設立。96年に日本万華鏡倶楽部設立、98年に日本万華鏡博物館を開設。著書に『万華鏡の本』『日本万華鏡博物館』
完全予約制(電話で申し込む)。1回=60分。1回の定員4〜5人、“学んで・作って・見る”博物館なので、万華鏡のキット代金が必要になります(希望キットにより1000〜7000円)。住所=渋谷区鶯谷町7―1 渋谷マンション310 ベアーズ内 電話03(3463)6916