【書評】「好き」を道標に生きた果て 『青春をクビになって』 額賀澪 著

文藝春秋 2023 年
1760 円(税込)
ぬかが・みお 1990年生まれ、茨城県出身。2015年、第22回松本清張賞・第16回小学館文庫小説賞受賞。『転職の魔王様』など著書多数 

 古事記は日本文学の最初の一滴。そんな言葉に魅せられ、大学で日本文学を学び35歳になった朝彦。今の身分はポスドク(ポスト・ドクター)、博士研究員という。大学院で博士の学位を取得後、私立大学で研究員として在籍したが契約解除され、今は非常勤講師として都内の大学を渡り歩く。授業は一コマ90分で8000円。他の大学でもコマ数を稼いで月収20万円弱。ここから各種保険が引かれる。世間は「将来有望な若手研究員」と見るらしいが、大学院を出たのに将来が見えない非正規雇用だ。

 そんな話を大学からの友人、栗山にグチる。彼は雇い止めと隣り合わせの毎日に、見切りをつけた。語学も達者な彼にはインドネシアの大学から研究者兼講師として日本よりも好条件の誘いがあったが、「俺たちの専門は上代文学だ。この国の始まりの物語を研究してるんだぞ?なんでインドネシアの方が俺たちの研究に理解があるんだよ」と嘆いたが、結局、日本に帰ってもまた、雇い止めの世界が待っていると、アカデミックの世界から足を洗い起業した。「レンタルフレンド」という友達代行業だ。

 「大学にさあ、小柳先輩が住み着いているらしいよ」と栗山が言った。小柳は40半ばのポスドク。「先輩が大学所蔵の古事記の版本を持って行方不明だって!」とスマホを手に叫んだ。

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