【アーカイブ】豪華な建物、庶民の憩い 懐かしい備品や歴史も 江戸東京たてもの園 大銭湯展〈2020年8月9,16日合併号より〉

 江戸時代に広まり、庶民が疲れをいやす憩いの場として親しまれてきた銭湯の歴史をたどる特別展「ぬくもりと希望の空間~大銭湯展」が、小金井市の「江戸東京たてもの園」で9月27日まで開かれています。豪華な建物や、富士山のペンキ絵など懐かしい空間を体感し、銭湯の魅力に触れることができます。

1988年まで足立区で営業し、園内に移築された銭湯、子宝湯の建物

 「日本人とお風呂とのかかわり、銭湯の発達の歴史、そして建物の魅力など、長く親しまれてきた魅力と歴史に迫る特別展です」―こう紹介するのは、江戸東京たてもの園の学芸員、小林愛恵さんです。

 展示は、プロローグの日本入浴史に始まり、①江戸東京の銭湯事情、②東京型銭湯、③銭湯黄金時代、④平成の銭湯、そしてエピローグの銭湯新時代まで、6つの時期に分けて、銭湯の歴史をたどっています。

 また、同園内に足立区から移築され、保存・公開している「子宝湯」(1929年建築)では、寺社建築のような豪華な外観や内装、壁のタイル絵、ペンキ絵、風呂場などを体感できます。

江戸の町に523の湯屋株が

 日本人と入浴との関わりは古く、その起源として、特別展では、水で心身を清める風習とのかかわりを紹介しています。3世紀ごろの日本を書いた「魏志倭人伝」にはすでに、死者を葬った後に、水で心身を清める風習が書かれています。

 有料の入浴の専門施設としての銭湯が大きく発達したのは、江戸時代です。当初は、蒸気を浴びる蒸し風呂だったと見られますが、お湯を大量に沸かせるようになるにつれ、湯船に入る施設が生まれてきます。

脱衣所の上は開放感のある「折り上げ格天井」に

 江戸の町にはあちこちに銭湯がありました。幕府公認の同業者組織「湯屋仲間」の記録には、湯屋を経営するための「湯屋株」が、成立当初で523株、認められていたとあります。1株で複数を経営する場合もあったと見られます。

 当時の銭湯で湯を沸かす仕組みの図や、建物の平面図などの展示も。「湯を沸かす仕組みは、水が通る長いパイプを使った現代のボイラーに近いものです。平面図も、入り口から左右に男湯と女湯が分かれていたり、今の銭湯にとてもよく似ています」(小林さん)―江戸時代に、現代につながる銭湯の原型ができたことが見えてきます。

豪華な造りで日常のぜいたくに

 銭湯は、戦後の高度成長期、風呂のない住宅が一般的だったなかで、全盛期を迎えます。

マッサージ機やヘアドライヤー、牛乳冷蔵ケースなどの備品の展示も

 当時の銭湯にあった通称「お釜型ドライヤー」と言われるヘアドライヤーや、牛乳販売の冷蔵ケース、コイン式のマッサージ機など、懐かしさを感じさせる備品が展示されています。

 頭痛薬「ケロリン」の広告付きの風呂オケは、腐食しやすく手入れが大変だった木製のオケに代わるものとして、一気に全国に広まりました。発売当初は白だったのが、傷や汚れが目立つとして、黄色に変わったことが紹介されています。

 同園内の復元建造物「子宝湯」は、銭湯全盛期の「東京型銭湯」の姿を伝えています。豪華な建築など見どころを知ったうえで、実際の建物を体感できます。

 子宝湯には、宮大工の技術を生かした寺社建築のような外観や内装が施されています。

 玄関の屋根は、中央が盛り上がった唐破風(からはふ)で、「兎毛(うのけ)通し」と呼ばれる唐破風の下の装飾には松の木と鷹、小鳥が刻まれています。さらに、玄関の上に彫られた七福神の彫刻が来る人を迎えます。

 脱衣所の天井は、正方形の格子が連なり、周りがカーブ状に盛り上がった「折り上げ格天井(ごうてんじょう)」。「天井が高く感じられて開放感がある、格式の高い造り」(小林さん)です。

 こうした豪華な日本建築の銭湯は、関東大震災で多くの銭湯が消失した後に作られました。銭湯には広い空間が必要なことや、日常のなかでぜいたくな時間を味わってもらおうということで広まったとみられます。

 壁には、移設時に再現された、富士山(男湯)と山並み(女湯)のペンキ絵が描かれています。

現在のペンキ絵は、園への移築に伴い、ペンキ絵師の中島盛夫氏が描いた

 銭湯は、家庭に風呂が普及するにつれ、次第に利用者数が減り、軒数も減っていきました。1968年に2687軒だった総軒数は2018年に544軒になりました。

 ただ、大きな風呂や、懐かしい空間にひかれる若い人も多く、1日あたりの利用人数は2013年以降、回復傾向です。特別展では「銭湯新時代」として、銭湯の空間を利用した新たな試みや、銭湯の魅力を普及する東京都浴場組合の活動も紹介しています。

(東京民報2020年8月9,16日合併号より)

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