【書評】現代を問う歴史小説 『塞王さいおうの楯たて』 今村翔吾 著

歴史小説ですが、主人公は武将でなく、石垣作り穴太衆(あのうしゅう)の職人・飛田匡介(きょうすけ)です。

 物語は関ケ原の戦い前夜の大津城攻防戦、城を攻め落とそうとする鉄砲作りの国友衆の彦九郎(げんくろう)と、それを石垣で防ごうとする匡助の争い・技の競い合いが中心となっています。

集英社 2021年 2200円(税込)
いまむら・しょうご 1984年京都府生まれ。『羽州ぼろ鳶組』(21年)シリーズで第6回吉川英治文庫賞、本作で第166回直木賞受賞

 二人とも争いのない世の中を目指しているのですが、その方法は真逆です。

 彦九郎は、「どんな城でも落とす砲」をつくり、その恐怖で戦ができないようにするもの。匡助は、「決して落ちない城の石垣」をつくり、戦と関わりのない民を守り、世の戦を絶えさせるというものです。

 彦九郎の「使えば一日で万…いや十万、百万が死ぬ砲。そんなものがあればどうなると思う?」という言葉は、核抑止論を想起せざるを得ません。

 決して破れぬ城を目指す匡助の胸の内にも、そうした石垣をつくれば、それを破ろうとして鉄砲の技術が進化し、争いが続くのではという思いがよぎります。

 二人の争いがどうなるのかは小説を読んでほしいのですが、小説の中の「泰平の形、泰平の質は矛が決める訳でも、楯が決める訳でもない。決めるのは人の心である」という言葉に深い意味と、平和を切望する著者の熱い思いを感じました。

 どうしたら戦のない世の中をつくれるかというテーマは現代につながるものであり、二人の争いは現代に鋭い問いかけをしています。ロシアがウクライナに侵略した今日の事態は、そのことを痛切に感じさせます。

 石垣作りや、鉄砲作りの職人たちの技術のすごさ・面白さ、大津城主の京極高次や西国無双の大名・立花宗茂など登場人物の魅力も見事に描かれています。また大津城の攻防は緊張感もあり、その現場にいるような錯覚さえ感じます。

 歴史小説の面白さを堪能できるとともに、現代における平和を熟考させられ、552ページという厚さですが、一気に読める超お薦めの一冊です。

(柏木新・話芸史研究家)

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