多数の樹木を伐採する神宮外苑再開発をめぐって、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の諮問組織イコモス(国際記念物遺跡会議)は9月、危機にあたる文化遺産を守る目的のヘリテージ・アラート(文化遺産危機警告)を発し、三井不動産など事業者に再開発事業の中止・撤回、都に環境影響評価の再審を求めました。反対世論の高まりと相まって、都が伐採前に樹木保全の見直し案を示すよう事業者に要請するなど、強行姿勢を貫いてきた都、事業者も無視できない状況に追い込まれています。
こうした中、あくまで再開発事業の強行を狙う事業者側は、ウェブサイトに9月29日付で「これまで説明してきた内容と大きく乖離(かいり)しており、イコモス独自の認識のもとで一方的に発信された」と、反論の見解を公表しました。
これに対し日本イコモス国内委員会の岡田保良委員長、石川幹子理事は4日、都庁で記者会見し、事業者側が対話に応じてこなかったことを指摘するとともに、「あまりにも非科学的だ」として再反論。「事業者はイコモスの指摘への異議を申し立てる前に、樹木をどこに、どのように移植するかなど科学的データを示すべきだ」と訴えました。両者の樹木に関する主な主張をみました。
伐採本数
アラートは「全体で3000本以上の樹木が破壊され」ると指摘していることに事業者は反論。伐採対象樹木3028本のうち、「9割は本数がカウントできない群生低木」で推計値だが、新たなみどり創出で割合は増えると強調。3メートル以上の高木の伐採樹木(743本)を上回る新植で、樹木本数も94本増加させると主張しています。
石川氏は、風致地区条例に基づく伐採許可申請では推計は許されず、低木も含めて確実に記載しなければならない重要事項なのに、環境影響評価書には低木について示されていないと指摘。低木は「外苑を訪れる人々が最も身近に触れあうことができる緑であり、極めて重要」だとして、低木を含めた毎木調査表(樹木1本ごとに調査結果を記載)を環境影響評価審議会に再提出し、伐採本数の正確な公表と説明を行うべきだと主張しました。
100年の森破壊
アラートは再開発が「過去100年にわたって形成され、育まれてきた都市の森を完全に破壊することにつながる」とし、伐採樹木のうち「500本以上が樹齢100年以上、さらに500本が樹齢50年以上と推定される」と指摘しています。
事業者は「神宮内苑の大きな森と異なり、外苑の計画エリアで一部の方々から『森』と称される場所は建国記念文庫の敷地のみ」で、計画対象地の約1.7%、3メートル以上の既存樹木は149本だと指摘。「森を完全に破壊するという記述は事実からかけ離れている」と反論しました。
石川氏は「外苑の森を保全するためには、全体を科学的に分析し、影響を予測し、再生への道筋を提案することが事業者の最低限の責務」だと強調。ところが外苑全体の森の相関的・構造的内容を把握するために必須の「現存植生図」が作成されておらず、建国記念文庫の森が4つの群落から構成されているのに1つの群落とみなしていると指摘。
その上で石川氏は、そのことによって引き起こされる「森の破壊」を詳しく解説。ナンジャモンジャの貴重な森は存在自体が認識されず、事業者が描く将来の森には再生されない残念な結果を生み出すと警告しました。
樹齢の確定
事業者が「樹齢を確定できる記録がない」としていることに石川氏は、「樹齢を一切考慮せずに伐採・移植計画を策定していることを立証したことになる。外苑全体の森の詳細な構造的内容を把握することが、科学的分析の基本だ」と批判しました。
イチョウ並木保全
アラートは新神宮球場の建設は「イチョウ並木の健全性に決定的な影響を与える」と警告しています。これに対し事業者は、「確実な保全のために必要な施設計画の見直しに取り組んでいく」とし、確認された落葉時期の早い樹木について「回復措置や灌水を実施」しているとしました。
石川氏はイチョウ並木の全146本の毎木調査を実施し、衰退しているイチョウがあることから協議の場を持つこと、誤りのある環境影響評価書の訂正を申し入れてきたと紹介。回復措置は2本だけで、「今はもっとひどい状況。落葉してしまっているものもある」と指摘しました。
東京民報2023年10月15日号より