【本】人跡未踏の南硫黄島に挑む 川上和人著 『無人島、研究と冒険、半分半分。』〈2024年1月28日号〉

かわかみ・かずと
森林総合研究所鳥獣生態研究室長。小笠原の無人島を舞台に鳥を研究
東京書籍 1760円

 本書は、人跡未踏の絶海の孤島・南硫黄島の調査に参加した鳥類学者のルポ的な報告書である。

 この島は、小笠原の父島から南へ300キロメートルの位置にある。直径約1キロメートル、標高916メートルの島である。海岸は切り立った数百㍍の崖に囲まれ、海岸は落石の危険もある。人を寄せ付けないから、過去から現在まで「人為的攪乱のない原生の生態系の姿」を残し、「類いまれなる魅力」を持った島だと著者は言う。

 天然記念物にも指定されているこの島の調査は、これまで1936年、1982年、2007年と2017年の4回実施されている。著者が参加したのは、3回目と4回目で、東京都と首都大学による自然環境調査である。

 07年の調査は、隊員18人で調査期間は約2週間。隊員の登山家3人が先に登って登攀とうはんルートにロープを張るなど研究者の安全確保に心を配る。

 登り口は、島の中で山が崩れた唯一の谷地形が選ばれる。隊員は、ここから標高500メートルまでロープの張られた谷地形の崩落地を登り、コルと呼ばれる少し平らな所へ。そこから尾根伝いに頂上まで登ることができる。

 山頂付近には森林があり、土壌が発達していた。そこで著者は多くの海鳥の死体に出会う。それは、「世界中で南硫黄島の山頂近くでしか繁殖していない」クロウミツバメで、死体が多いのは繁殖数の多さを示している。ここでしか手に入らない死体も貴重。著者は気分よくザックに死体を詰めるだけ詰めて持ち帰る…。

 著者は、海岸部ではカツオドリなど3種の海鳥の繁殖を確認、標高500メートル地点にはシロハラミズナギドリ、山頂ではクロウミツバメの繁殖を確認した。なぜ高さですみ分けているのか。鳥の体重差によるのだという。

 本書後半は2017年の調査の報告。前回から10年の間に2種の招かれざる外来植物が進入したことや、初参加のNHKのドローンで、アカアシカツオドリの繁殖が日本で初めて確認されたことなどを紹介している。

 類い稀な人跡未踏の島は、知らないことが満載だから面白い。(ライター・松橋隆司)

東京民報2024年1月28日号より

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