災害への備えを我が事に 消防博物館 歴史とともに対応学ぶ〈2024年12月22日号〉

 空気の乾燥により火災の発生が多いとされる年末に差し掛かり連日、火災のニュースが続いています。「火事と喧嘩けんかは江戸の華」といわれてきたように、東京の消防力の発展や街づくりは大火による被害の歴史が背景にあります。さらに近年、家事機器の発達による火災の傾向の変化や消防の啓発活動なども踏まえて、私たちの認識のアップデートも必要ではないでしょうか。新宿区にある消防博物館を訪ねるとともに、東京消防庁防災安全課住宅防火対策担当に火災の傾向と対策について聞きました。

1870年に初めてイギリスから輸入された馬引き蒸気ポンプ、ラッパを鳴らして火災現場へ駆けつけていた

 江戸での火災も特に11月から5月にかけて多発していました。これは現在も同様で空気の乾燥と強い季節風、暖房での火気使用が火災発生の大きな原因のひとつでした。さらに人口の密集などの要因による火災の規模と発生頻度から、「江戸の華」といわれるゆえんだといいます。中でも明暦の大火(1657年、死者10万人以上)、目黒行人坂大火(1772年、死者1万4700人)、丙虎の大火(1806年、死者1200人以上)が江戸の三大大火と称されています。

 その後、1923年の関東大震災に伴う火災や、日本初の高層ビル火災である1932年歳末の白木屋デパート火災(14人死亡)などが起こり、その対応の歴史が東京の消防力の強化につながっていることを博物館の展示物から学ぶことができます。

 時代劇でもおなじみの火消のまといの展示はもちろん、消防自動車のない時代の消火方法も見ることができます。延焼を防ぐために建造物を破壊した「破壊消防」の際に使われた道具などの展示があります。

馬引きやバイク 消防車の発展も

 明治時代になると外国からの消防の機械が輸入され、「消火消防」に向けて大きく発展したことがわかります。消火栓の設置や馬引き蒸気ポンプ、救助はしごや救助袋などが使用されていました。馬引き蒸気ポンプがあったため、消防署には獣医がいて馬の健康診断も行われていたとは驚きです。

 大正時代には消防自動車が導入され、全長24メートルの8階の建物まで届く梯子消防自動車が登場。白木屋デパート火災で活用されたはしご車のはしごも展示されています。

 昭和になると119番の火災専用電話や救急業務が開始され、戦後は自治体消防のスタートに伴う東京消防庁の発足と発展がうかがい知れます。東京消防庁では近隣県でも先駆的な赤バイと呼ばれたオートバイの二輪消防車もあります。交通渋滞による火災の現場到着を補って1976年まで活躍していましたが、現在ではクイックアタッカーとして山間部などで素早い火災対策や人命救助に大きな役割を果たしています。

1969年〜1976年まで活躍していた赤バイ

 同館は親子で楽しめる展示も多数ありますが、防災の呼びかけとして企画展(年に3回)にも積極的に取り組んでいます。現在は阪神淡路大震災から30年を迎えるにあたり、防災の呼びかけの一環として同震災を特集しています。こうした展示は防災・防火を「我が事としてとらえて欲しい」という思いからだといいます。「テレビやネットだけではわからない情報」がつまっています。

 わかっているつもりで分かっていないことを知ることで、自分と大切な家族の命を守れることにつながることにもなるのではないでしょうか。

時代とともに進化し変遷を遂げてきた防火衣も展示
火災起こさぬ心づもりは…

 火が出ない暖房機器による火災の発生が顕著だといいます。特に多いのが「電気ストーブ」で、過去5年のストーブが原因の住宅火災539件の内、電気ストーブが原因となるものが395件で7割を占めています。昨年は住宅火災の死者9人全員が電気ストーブによるものだとして注意を促しています。①ストーブの周りに可燃物を置かない②衣類などを干さない③就寝時はつけっぱなしにしないーという、「3つのない」は守らなくてはいけません。

 昨年の住宅火災の死者は67人で、内原因は多い順に▽たばこ(14人)▽ストーブ(9人)▽こんろ(6人)▽コード(4人)ーが約半数を占めているといいます。

 東京消防庁では寝たばこをしないのはもちろんのこと、吸殻を灰皿やゴミ箱にためない他、「水をかけて完全に消火すること」を呼びかけています。ストーブでは前記に加え、スプレー缶などを近づけないことも大事だといいます。こんろは調理中に離れない、周囲に燃えやすいものを置かない。さらには換気扇や魚焼きグリルの定期的な清掃も防火に寄与します。電気コードもタコ足配線や、家具の下敷きにしたり、束ねたままの使用、折れ曲がりも過熱・発火の危険があると警鐘を鳴らしています。

 さらに同庁は、こうした出火防止対策の他、万が一の際に「早く気付く」「早く消す」対策が必要と強調します。早く気付くために住宅用火災警報器の設置、早く消すために消火器、住宅用消火器、エアゾール式簡易消火具の設置・維持管理を呼び掛けています。

 共同住宅(マンション、アパート)のバルコニーは有事の際の避難経路となり得ることから、「植栽などの物品存置は避難や消火活動の妨げになる可能性がある」ため置かないよう努めて欲しいと訴えています。流行りのバルコニー菜園やガーデニングも注意が必要ですので、年末の大掃除で見直してみませんか。

左から東京消防庁広報担当の大川沙里奈さん、消防博物館の一色宏伸館長、宮崎裕美学芸員

※その他、避難時の案内など、注意事項の詳しくは東京民報WEBぺージで紹介します。

東京民報2024年12月22日号より

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