劇団前進座は、5月7日から18日まで、国立劇場で、創立90周年記念公演を予定しています。昨年はコロナ禍で国立劇場公演が中止となり、2年ぶりの上演です。出演する中嶋宏太郎さんに、国立劇場公演の演目と、劇団90周年への思いについて聞きました。

ー昨年は5月の国立劇場公演が、直前で中止になりました。
私が前進座に入ったのが劇団60周年のときで、今年でちょうど30年になります。その30年間で、公演がなくなるなんて、初めての経験で、何が起こっているか、よくわからない、なくなったことを受けとめるのが精一杯というのが正直なところでした。
3月からいろんな舞台が中止になって、私が再び舞台に立ったのが11月の北海道での「ひとごろし」です。8カ月ぶりに舞台に立って、生で客席と交流する空間の一体感は、舞台ならではと実感しました。お客様を前に、お芝居をやることの素晴らしさを新鮮に思い起こさせられたのは、コロナで唯一、良かったことだと思います。
国立劇場は、私たちにとって特別な舞台ですし、ここから90周年の記念公演が始まります。チケットを買って、楽しみにしていただいているお客様のために、何としても良い舞台をお届けしたいと思います。
万年筆の書き込み
―今回の公演では「たがやの金太」で金太を演じられます。
この作品は、「たがや」「長屋の花見」「花見の仇討ち」の三つの古典落語をもとにした、前進座のオリジナルです。
40年以上前に、中村梅之助さん(元劇団幹事長、2016年没)が、有馬稲子さんとコンビで演じています。映像も音声も残っていないんですが、30秒に一度くらい、客席の大爆笑が続いた、という逸話だけは残っていて。ある意味、伝説的な喜劇といいますか…。
―プレッシャーですね。
そうなんです(笑)。ただ、当時、梅之助さんが使っていた台本が残っていて、今回、見せてもらいました。万年筆で細かく書き込みがされていて、梅之助さんも、こんなに色々工夫して、努力しながら舞台を作ったんだと、うれしくもあり、励まされました。
今回、新しく歌舞伎世話物として仕立て直して上演します。こういう時だからこそ、前進座のアンサンブルとチームワークで、長屋のしぶとさとか、面白さ、力強さ、人間の生きる姿を、笑いと共に伝えられればと思います。
―狂言舞踊「茶壺つぼ」では壺を盗もうとする盗人役を演じます。
2010年にアメリカ公演した際、茶壺が演目の一つでした。その時は、(藤川)矢之輔さん(現在、劇団理事長)が盗人役で、私は、壺を盗まれる「麻估六(まごろく)」の役でした。どちらが壺の本当の所有者かを証明するため、「連舞(つれまい)」をすることになって、盗人は麻估六の踊りを盗み見て、まねるため、微妙に遅れてしまう。そこが見どころで、アメリカでも、大うけでした。
その笑いを体験しているので、これもある意味、プレッシャーです(笑)。単純で、シンプルな話だからこそ、演じる難しさがあります。しっかり稽古して磨きをかけたいと思います。



代々継いだ役割が
―前進座の代表作ともいえる「俊寛」では、中村翫右衛門さん(劇団創立メンバー)、梅之助さんらが演じてきた俊寛を、今回は矢之輔さんが演じます。中嶋さんには「舟子の一」という、重要な役目があるそうですね。
舞台の最後、俊寛が一人、島に残ることになり、出発する船の纜(ともづな)にすがりつこうとする。その纜を動かすのが、「舟子の一」なんです。
梅之助さんの俊寛の時には、矢之輔さんがこの役目をやられたそうです。代々、受け継いできた大事な役割です。
実は、30年前、入座して初舞台に立ったのが、国立劇場での「俊寛」でした。梅之助さんにすごく怒られて(笑)。それから30年を経て、また国立劇場の俊寛の舞台に立てる、めぐり合わせに感謝しています。
劇場へお花見に
―4月2日の劇団90周年の夕べでは、過去の公演の映像や音声、写真が紹介されました。
改めてすごい劇団なんだと実感しました。90年続くには、続く理由があるんだ、先輩たちは、ずっとたたかってきたんだ、と。「民主的な劇団の創造と運営」を目指した劇団創立もそうですし、「赤平事件」(1950年代の民主的な団体への弾圧のなかで、警察の妨害に負けず、翫右衛門が観客に守られながら北海道で「俊寛」の公演を続けた事件)もそうです。経済的な面でのたたかいもありました。
それを先輩たちが勝ち残ってきたんだと思うと、コロナに負けてはいられない、乗り越えていかねばと思います。
―観劇する読者へのメッセージをお願いします。
お芝居は、やはりその場で一緒の空間を体験するのが醍醐味です。万全の感染症対策をしていますので、ぜひぜひ安心して見に来ていただければと思います。
「たがやの金太」には、お花見のシーンもあります。今年は花見に行けなかったという方も、国立劇場の客席で、お花見をぜひ一緒に楽しみましょう。お待ちしています。
東京民報2021年4月25日号より












