【読書 今月の本棚と話題】公儀を畏れない講釈師の生涯 『暦のしずく』 沢木耕太郎 著〈2025年10月19日号〉
- 2025/10/19
- 書評
本書は、ノンフィクションの名手の著者が書いた初の時代小説です。芸能史上で唯一獄門に処された江戸時代の実在の講釈師・馬場文耕の生涯を描いています。
文耕は江戸幕府の御家人でしたが、その後、講釈師・著述家となり、太平記などの古典を読む事に留まらず、市井の人々の事柄(世話物)、さらに大名や幕政を批判する「政治物」を語ったり、著述するようになります。

2200円+税
さわき・こうたろう 1947年東京生まれ。ノンフィクション作家・エッセイスト・小説家。作品は『テロルの決算』『深夜特急』など多数
文耕は、幕府の評定上で審理中だった美濃国郡上八幡(現岐阜県郡上市)で発生した郡上一揆(金森家騒動)についての講釈(講談)を行い、それを実録本『平かな森の雫』として著したことによって捕縛され、獄門になったのです。
文耕に関する歴史資料は少なく、素性について記述した幕末の関根只誠著『只誠埃録』、獄門を申し渡された江戸時代の判決文、そして現在残されている文耕本人の十七ほどの作品のみです。
著者は、その希少な資料を深く読み取るとともに、江戸時代のさまざまな事柄、人物の調査を行い、しっかりした時代考証の上に、豊かな想像力を駆使し、実に魅力ある長編時代小説に仕上げたのです。












