【街角の小さな旅】 久米美術館と行人坂 繰り返される学問弾圧の歴史〈2025年6月1日号〉

 久米美術館はJR山手線目黒駅前にあります。

 美術館は日本が封建制支配のくびきから解かれ、資本主義のもと近代化、西欧化がすすめられた19世紀後半から20世紀前半にかけて活動した歴史家・久米邦武と洋画家・久米桂一郎親子の事跡資料と作品を展示しています。

久米美術館

 邦武は新政権の岩倉具視使節団の一員として欧米を歴訪し、開明的・合理的、科学的な精神文化を学び、帰国後は科学的・実証的・進歩的な立場から日本の歴史を探究、歴史学を確立しました。

 その邦武が発表した「日本の神道の科学的検討で、神道の諸要素、儀式、形態を分析して東洋一般に行われた祭天の古俗であるという見解」(久米美術館)を提示した論文「神道は祭天の古俗」は、当時、台頭していた国家神道派から「不敬」(同)との攻撃、久米排撃の運動が展開され、邦武は務めていた帝国大学を「非職」とされ、野に下りました。これは前年に「教育勅語」が発布されるなど、天皇の神格化、天皇制支配の確立をすすめる支配層による「学問研究の自由、思想の自由を弾圧する意図」(同)のもとおこなわれたものでした。

 いままた歴史がくり返されようとしています。

 桂一郎は当時の画壇を代表する黒田清輝とともに外光派の画風の洋画を描き、のちに美術行政家、教育者として日本画壇に足跡を残した人です。

 展示室には黒田清輝の作品も展示されています。桂一郎の「夕潮」はフランス北西部ブルターニュにあるブレア島を描いたもので、静謐な風景がやわらかな海風を運んでくるようです。はじけるような少女の肖像画「少女」は見るものに何かを問いかけてくるような息吹を感じさせられました。

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