確実に変わっている世界 『連帯の時代─コロナ禍と格差社会からの再生』 伊藤千尋 著〈12月20日号より〉
- 2020/12/21
- 書評
自己責任が押し付けられ、人が孤立しがちな日本。「どうせ世の中は変わらない」というあきらめ「無気力」が蔓延しています。これに対し「いや、違う。『自立と連帯』により世界は確実に変わっている」とヨーロッパへの旅から励ましを送ってくれる本です。

イタリアは、極右のベルルスコーニ政権の下、コロナ禍で医療崩壊と多くの死者を出していますが、ロックダウン(都市封鎖)の中でもアパートの窓やベランダから歌い合い、声を掛け合う陽気な国民性です。
8000を超えるコムーネ(コミューン)があり自治の伝統を持っています。日本の市町村数は1700余り。北イタリアでは都市国家の自治の伝統が今も生きています。都市自治の様子をボローニャやフィレンツェを通じて紹介しています。
イタリアの第2次大戦の終結については初めて知りました。独裁者ムッソリーニを「戦争をやめさせる」ため軍人や側近が逮捕し、その後ドイツ軍に「奪還」されるも、ドイツ軍とたたかい勝利し、連合軍が来る前にイタリアを解放しました。日本、ドイツの敗戦と異なり、イタリアは自力で戦争にピリオドを打ったのです。
ドイツは、2020年3月のメルケル首相の国民への演説が感動を呼び、迅速な対応で死者を少なくしています。ベルリンの壁崩壊に至るプロセスや、崩壊30周年を迎える市民の様子を伝えています。戦争責任と真摯に向き合うドイツ政府の姿勢も感動的です。
日本ではあまり紹介されないバルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)の様子が詳しく紹介されています。
ソ連(ロシア)とドイツの強国に挟まれ、50年近くもソ連圏として自治を許されなかった三つの国が東欧革命の中で独立しました。ソ連支配の中で、自分たちの民族性を守ったのは何よりも「歌」でした。三つの国の首都を200万人もの人が手をつないで結んだ「人間の鎖」は想像するだけでも感動的です。
本の帯に「これを読むと元気になります」とあるように、「世の中捨てたものではない」と思わされます。(松原定雄・フリーライター)
(東京民報2020年12月20日号より)