政府方針は矛盾だらけ 自宅療養 重症化の防止が困難に 大泉生協病院 齋藤文洋院長に聞く

 新型コロナ感染者の急増で、都内の医療が崩壊寸前の深刻な危機を迎えています。入院や宿泊療養ができず、自宅で過ごさざるを得ない患者は15日現在で約3万5千人に。そんななか、菅政権が突然打ち出した、新型コロナ感染者の入院を重症者などに限定する方針は、強い反対の声が広がり、見直しに追い込まれました。ただ、「重点化」の名で入院を制限する方針は撤回していません。専門家は、体制を整えないまま自宅療養が増えることは、重症患者の増加を招きかねないと警鐘を鳴らします。政府の入院制限をめぐる方針の混乱、医療現場の状況について、コロナ病床を設置している大泉生協病院(練馬区)の齋藤文洋院長に聞きました。(荒金哲)

 ―入院制限をめぐる政府の方針をどう受け止めましたか。

齋藤文洋院長

 まったく医療の現場がわかっていない方針です。

 中等症の人たちのベッドを空ければ、重症の人たちの受け入れを増やせると考えたのでしょうが、重症患者を受け入れるのは大学病院などの高度医療を担う総合病院です。

 他方、大泉生協病院は94床の小さな規模の病院で、2症のコロナ病床をつくっていますが、この規模の病院が重症患者を受け入れられるわけがない。人工呼吸器はありますが、エクモ(体外式膜型人工肺)などないし、その体制もありません。現在、中等症を診ている病院の8、9割は同じような規模の病院です。

 重症の人しか入院しないとなったら、こうした病院のベッドは誰も入院しなくなる。それでは病院経営が成り立たないから、コロナ病床自体を解消せざるを得なくなるでしょう。

 つまり、現在のコロナ病床の大半がなくなり、重症患者を診られる一部の大病院だけがコロナに対応することになります。方針は「絵に描いた餅」どころか、矛盾だらけで見直しは当然です。

 ―中等症の人が自宅で療養することに、どんな危険性がありますか。

 中等症は重症化するかしないか、その境目にいる人たちで、だからこそ慎重にケアが必要です。

 新型コロナの大きな特徴は、重症化にいたる自覚症状が非常に少なく、症状が出た時には死の直前まで至っていることです。「ハッピー・ハイポキシア(幸せな低酸素症)」というほど、血中酸素濃度がかなり低下していても、苦しいといわない患者さんが多くいます。だからこそ、症状を慎重に診てさまざまな検査をして、重症化を防ぐ必要がある。自宅療養では、こうした対応が難しくなります。

 ―医療の現場で第5波の感染拡大をどのように実感していますか。

 コロナ病床は、退院しても、数時間後には次の人が入る満床状態が続いています。また、発熱外来も保健所からの依頼が次々と来て、まったく余裕がない状況です。

 デルタ株の特徴は、家族内での感染が非常に多いことです。家族で1人感染が出ると、ほぼ全員が感染し、陽性になります。ただ、その家族にワクチンを2回打って2週間以上経っている高齢者がいれば、その人はほぼ感染しません。ワクチンの効果は明らかに実感しますが、感染の広がりが非常に早いのが脅威です。

 ―政府や都は自宅療養を広げる方針は変えていません。

 自宅での療養を増やし、往診などを強化するとしていますが、簡単なことではありません。

 医療機関で往診の経験があるところは1割ほどでしょう。往診をやる医療機関も、日常の診療が目いっぱい入っています。

 都や区などから「コロナの自宅療養者が急変した」と連絡を受けても、通常の診察や往診の途中で、すぐに駆けつけられるわけではありません。

 自宅で療養を求めるなら、重症化しそうな人の情報を行政と医療機関が早めに共有したり、訪問診療する医療機関の支援の仕組みをつくったり、自宅療養者が不安を覚えた時の相談窓口を整備するなど、総合的な対策が必要です。それなしに、自宅療養を求めても、重症化を招き、医療崩壊をさらに加速させることになりかねません。

(東京民報2021年8月22日号より)

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