【編集長インタビュー】コロナ禍の貧困 現実から目を背けぬ社会に 公助の不足で長期的影響 つくろい東京ファンド 稲葉剛さん

 生活困窮者への居住支援に取り組む稲葉剛(つよし)さん(一般社団法人「つくろい東京ファンド」代表理事)が、『貧困パンデミック』(明石書店)を7月に出版しました。コロナ禍のもとでの支援の活動を、その時々にウェブ媒体で発表した記事を中心に、時系列にまとめたものです。支援の現場から見た、コロナ禍での貧困、公助のあり方を聞きました。(荒金哲)

27年間で初めて見る光景が

「27年間、貧困の現場を見てきて、初めての事態がコロナ禍で広がっている」と話す稲葉さん(写真は本人提供・撮影:横関一浩)

 ―コロナ禍の貧困の特徴は。

 コロナ以前は路上生活をする人の数は減少傾向にありました。炊き出し支援などを受ける人は、年齢的には50代以上の単身男性、路上生活歴が長い方がほとんどでした。

 それが昨年の春以降、10代、20代の相談が非常に増えています。虐待や、家庭の貧困などで、親からの援助を受けられない若者からの相談が珍しくありません。

 二つ目の特徴は、女性が増えたことです。コロナ禍は飲食店を中心に対人サービスで働く人たちに大きな影響を与えました。これらは女性の非正規労働者が多い業種です。もともと年収200万円以下のワーキングプアでギリギリの生活だった人たちが、路上に押し出されています。

 特徴の三つ目が、外国籍の人たちが多いことです。在留資格がなく入管の収容施設に入っていた人たちが、密集生活を避けるためにと仮放免になった場合、生活保護も認められず、働くこともできません。八方ふさがりで生活が成り立たず、相談に来られています。

 このように、世代も、性別も、国籍も超えて貧困が広がっています。私は27年間、貧困の現場で活動してきましたが、初めて見る状況で、強い危機感を抱いています。

 ―副題に「寝ている『公助』をたたき起こす」とあります。

 コロナ禍の下での国の貧困対策の主軸が、給付でなく貸し付けだったことが、非常に大きな問題と考えています。

 現金給付は、これまでのところ、昨年、特別定額給付金が一律10万円支給されただけです。諸外国では現金給付が複数回、行われており、生活困窮者への上乗せも実施されています。

 社会福祉協議会からの貸し付けを限度額の200万円まで借り切っているケースも多く、さらに金融機関からの借金をしている人も多くいます。今後、返済が始まると、ゼロどころか、借金というマイナスからのスタートになります。中長期的に貧困状態に固定化される人たちが多く出ることを心配しています。

住まい第一の支援でこそ

 ―東京都の対応を振り返り感じることは。

 都内には2017年の東京都の調査で、ネットカフェなどで暮らす住居喪失者が約4000人いました。

 昨年4月の一回目の緊急事態宣言でネットカフェへの休業要請が行われたため、この人たちが生活の場を失い路上に押し出される事態になりました。宣言が出る直前に、都内の6つのホームレス支援団体で、世界各国が行っているように、ビジネスホテルを行政が借り上げるなどして、支援するよう提案しました。

 その後、ビジネスホテルを活用した支援が始まったことは、評価しています。ただ、相談窓口の対応や周知の仕方に問題が多く、相談に行っても追い返される事態も生まれ、そのたびに何度も改善を求めました。

 従来から、生活保護を申請した人が、相部屋の劣悪な宿泊施設に誘導される「施設ファースト(施設入所前提)」が、問題になってきました。安定した住まいを無条件で提供して地域での生活を支える「ハウジングファースト」の支援が必要です。

 今回、コロナ対策として、相部屋ではなくホテルに入り、そこからアパートに入居する支援の流れが始まったおかげで、支援につながった人たちが多くいます。コロナ後も、これを継続させるよう求めていきます。

『貧困パンデミック』(明石書店、1800円+税)

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