【アーカイブ】痴漢は尊厳傷つける性暴力 撲滅は男性の問題です 加害者治療に取り組む 斉藤章佳さんに聞く〈2020年7月5日号より〉

 「痴漢に遭った」という被害者に「ちょっと触られたくらいで」「隙があったのでは」などの言葉が浴びせられることも多くあります。知らない人間から性的接触を受けた恐怖で電車に乗れなくなった人も少なくありません。痴漢は人の尊厳を傷つける最も身近な性暴力で、加害者は99%が男性です。他方、テレビ番組で痴漢を取り上げる時は「被害」と一緒に「冤罪」を取り上げることが多く、より被害者を傷つけているのが実態です。「痴漢撲滅に向けてできること」を痴漢加害者の治療プログラムに13年間、携わってきた斉藤章佳さんに聞きました。

 「痴漢被害」というと満員電車内で体を触られたというイメージを持ちがちですが、「バリエーションは多岐に渡ります」と斉藤さんは切り出しました(表、グラフ)。また「痴漢行為を始めてから専門治療に至るまでの当院のデータでは週2~3回の加害行為を重ねて約8年かかっています。それまで被害者は出続け、9割が泣き寝入り」と語ります。東京都の痴漢発生件数は2800件(平成28年度警視庁発表)で、1日あたり5件の被害しかない計算になることからも明らかです。

 被害者で多いのは“小・中・高校生”。制服を着ていて従順そうで泣き寝入りしそうな、警察に訴え出なそうな人がターゲットになりやすいといいます。「露出が多いから狙われたなど、被害者の落ち度を問う自己責任論を主張する人もいますが許されることではなく、被害者の自責を促す“セカンドレイプ”に他ならない」と警鐘を鳴らします。社会的に痴漢を軽視する傾向も許されません。

大卒会社員妻子あり―痴漢の実態

 「痴漢は学習された行動」だと斉藤さんは指摘します。加害者像のイメージとして、「女性にモテそうもない未婚男性」「性欲を持て余したモンスター」などといわれるのが一般的です。しかし、治療のデータから浮かび上がる実態は、「4大卒で会社勤めをする、働き盛りの既婚男性」で、想像力や共感性が欠如していることが特徴的。「自分のパートナーや娘が同じことをされたらどう思うのか」と問うと犯罪への怒りをあらわにする一方で、同じ思いをした被害者への配慮や贖罪の気持ちを見せることがないといいます。

 加害者のほとんどが行為の理由を性欲ではなく、▽ストレス解消▽優越感▽レジャー▽達成感▽支配欲―からだと言います。中には「相手の人生に爪痕を残せる」「生きがい」と発言した加害者もいるといい、まるでゲーム感覚で性暴力を行っています。

 また彼らは「ちょっと触られたからといって、女性も何かが減るもんじゃない」と共通して口にすると言います。自己中心的で女性をモノ以下の扱いをし、対等な存在とは見ていません。「最初は嫌がる素振りを見せていても、嫌よ嫌よも好きのうち」「痴漢をOKする女性がいる」「触られて喜んでいる」という事実誤認も持ち合わせています。

 さらに「こちらをチラチラ見て誘ってきた」「女性から近づいてきた」と言う加害者も存在します。アダルトサイトの“痴漢もの”のように、触られて喜ぶという認知の歪みを持っている加害者が本当にいるのです。

 世界的に見ると公共交通機関で日常的に性犯罪が頻発している国は珍しく、外国人が来日して日本で痴漢を学んだといって逮捕されクリニックを受診するケースも時々あるといいます。

痴漢を許さない社会へできること

 痴漢の原因のひとつとして“男性の性欲はコントロールできない”という定説が上げられることがあります。斉藤さんは「これを男性側が声を上げて否定することが大切です。男性はそんな低俗な生き物ではありません」と強調します。

 また「この価値観が根強く残っているのは、これによって隠ぺいできる事実が男性側にあり、行為の責任から目をそらすこと」だと警告します。

さいとう あきよし 精神保健福祉士・社会福祉士/大船榎本クリニック精神保健福祉部長。1979年生まれ。大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症施設である榎本クリニックにソーシャルワーカーとして、アルコール依存症などさまざまアディクション(依存症)問題に携わる。その後、2016年から現職。専門は加害者臨床で「性犯罪者の地域トリートメント」に関する実践・研究・啓発活動を行っている。早期の依存症教育にも積極的に取り組み、講演、マスコミ出演、著者・論文など多数。近著に「小児性愛という病─それは愛ではない」(ブックマン社)

 痴漢を軽く扱う傾向の背景として「家庭、学校、メディアを通して、例えば社会の中で日常的に男尊女卑が刷り込まれていることが大きい。例えば会社組織の意思決定をする場面にいる役職者のほとんどは男性。女性は“嫌だけど仕方ない”と男性に忖度する場面も多い」ことを指摘します。

 痴漢は中には立ち直れない被害を受け自尊心を日々削られて、学校や職場にいけなくなるなど人生を狂わされることもあります。“痴漢=性暴力”を許さないためにも、女性の「(報復を恐れて)通報できない」を解決することは待ったなしです。

 「自治体は痴漢を放置しすぎです。学校の性教育などで正しい知識を教える必要もあるでしょう。また痴漢は自己主張の強そうな人や抵抗されることを嫌がるので、“痴漢抑止”に向けて啓発バッヂやシールなどグッズの作成・配布なども有効です。ぜひ考えて欲しいです」

(東京民報2020年7月5日号より)

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