感動的かつユニークな視点の本に出合いました。本書は2022年7月から10月まで東京新聞に91回連載された「この道」シリーズの単行本化です。筆者は、中小企業経営の研究者であり経営指導の実践者です。なにより全国の中小企業を8000社も訪問調査指導したという実績の持ち主です。全国を回って経験した中小企業経営の感動的エピソードが収集されています。

1650円(税込)
さかもと・こうじ 1947年生まれ。経営学者。法政大学大学院教授、人を大切にする経営学会会長。著書に『日本でいちばん大切 にしたい会社』シリーズなど
また、筆者は、自ら立ち上げた「人を大切にする経営学会・会長」であり、法政大学大学院の教授としての研究者でもあります。「日本で一番大切にしたい会社」大賞の表彰制度を10年以上続けています。この制度で表彰された企業のエピソードは涙なしには読めない感動的な話です。
内容は、①高率で障害者雇用を続ける会社②病気になった社員に法定の期間を過ぎても給料を払い続ける会社③定年もなく働ける期間ずっと高齢者の雇用を続ける会社④外国での実践等従業員を大切にする感動的な中小企業の経営―を具体的にレポートしています。
非正規化やパート雇用など不安定・使い捨ての雇用政策が大流行の中で、会社は、①「社員とその家族」②「取引先とその家族」③「顧客」④「地域住民」⑤「株主」―のためにあると宣言し、「五方良し」の経営理念を実践・指導して全国を回っています。
この経営理念は、客観的には近年の新自由主義的経営に正面から対決するものです。筆者は声高には最近の人事・労務政策を批判していませんが、この経営理念とその実践は、現代の経営理念に正面から対決するものだとみることができます。労働者を使い捨て、株主と経営者の利益が第一とする経営をもうやめさせ、従業員を大切にする経営・賃上げをする経営にせねばなりません。
障害者の雇用や高齢者の雇用の部分を読むと、こんな経営が可能なのか? と信じられない気持ちになりますが、何より筆者が自分の足で調査した、8000社の重みが説得力を大きくします。職場で闘う勤労者や中小企業の経営者にもぜひ手に取ってもらいたい一冊です。(松原定雄・ライター)
〈東京民報2023年3月19日号から〉