「天災は忘れた頃にやってくる」-物理学者で、文学者としても活躍した寺田寅彦の警句として知られる言葉です▼ただ、実際の寺田の文章からは、似た言葉は数々あるものの、この言葉自体は見つかっていないのだといいます。弟子の一人が、寺田の言葉として新聞で紹介したことで、防災の精神をよく伝える言葉として、人々に知られるようになったとされています▼その寺田が45歳の時に遭ったのが、間もなく100年の節目を迎える関東大震災でした。1923年9月1日に起きた地震は、死者10万人を超える甚大な被害をもたらしました▼死者の多くは、大規模な火災によるものでした。密集した都市で木造家屋が多かったことに加えて、台風による強風がもたらした「複合災害」です。さらに、震災の混乱の中で、デマが広がり、朝鮮人や社会思想家の虐殺も起こりました▼物理現象としての地震が、どのような被害をもたらすかは、都市や建物の構造、さらには人々の意識など、社会的要因で決まります。だからこそ、防災の備えが重要なことは、寺田が繰り返し論じたテーマの一つでした▼関東大震災に近い規模の地震は、首都圏で繰り返し起きています。近く起きるであろう大地震への備えを考える、百年目の秋です。
東京民報2023年8月27日号より