全盲の学生「自分の力で通学したい」 大学前に音響信号ついた〈2024年3月31日号〉

 「誰にも頼らず自分の力で通学したい」。大東文化大学板橋キャンパス(板橋区)に通う全盲の秋元美宙みひろ(21)さん=同大3年生=の願いが今春、ようやく実現します。介助者なしに渡れなかった同大キャンパス正門前の横断歩道に、音響式信号機の設置が実現したからです。秋元さんの熱い思いがゼミ仲間や大学当局にも共感を広げ、ついに行政を動かしました。

大学正門からバス停までの道のりを確認する秋元さん(中央)。後ろから見守る(左から)大山とも子、とくとめ道信、原純子の各都議と友人、大学関係者ら=21日、板橋区

自立への熱意、行政動かす

 「入学当初から音響式信号機を求めて行動してきたので、実現してうれしい。道を自分の力で歩けるのは、言葉では言い表せないほどの充実感があります」

 東京視覚障害者協会(東視協)が呼びかけた「安全設備を確認する会」(3月21日)で、駆けつけた大学の友人や大学関係者、支援者らを前に秋元さんは喜びを語りました。

 秋元さんが専攻する社会学部の1・2年生は東松山キャンパス(埼玉県)、3・4年生が板橋キャンパスです。入学が決まってから、一人で通学するためにルートを入念に検討しました。東松山では自宅から電車やバスを乗り継ぎ、大学の敷地に乗り入れるスクールバスを使用しました。

 板橋キャンパスでは東武東上線成増駅から路線バスを利用することにしました。ところが帰りの成増駅行きのバスに乗るには、正門前の横断歩道を渡らざるを得ないことが分かりました。片側3車線の都道は幅が広くて交通量も多く、上には首都高速道路もあって、車の走行音を頼りに渡るには余りにも危険でした。

 秋元さんは歩行者の青信号を音で知らせる、「音響式信号」の設置を要望することにしました。相談した盲学校時代の恩師から、東視協を紹介され、入会。山城完治副会長のアドバイスのもと、東京都建設局や警視庁などに請願書を提出しました。

 「全盲の私にとって道路を横断することは、一歩間違えれば車にひかれ命を落としかねない危険な事です。大学まで一人で通学することは、大学生活を充実したものにするだけではなく、社会に出て自立するための大きな一歩になります」と、訴えました。

横断できないのは全盲が理由でない

 大学2年の秋ごろ、警視庁や都建設局、板橋区などの関係者が秋元さん立ち会いのもと、現場を確認。要望通り、成増駅行きバス停までの歩道の中央に点字ブロックを敷設しました。成増駅のエレベーター降り口から大学へ向かうバス停までの点字ブロックなども整備しました。

 しかし3年生になっても音響式信号機の設置はかなわず、大学の友人や社会学部の職員がバス停まで介助するようになりました。

 「3年生からキャンパスが板橋に変わり、通い始めてから半年が経ちましたが一度も一人で通学できていません。それはただ私が全盲だからではなく、音響信号がついていないからなんです。(略)信号の色を確認して渡るという当たり前にできることが私にはできないのです。横断歩道を渡るときに、青信号を何回かやり過ごすことがあります。それがどれだけ不自由なことか分かりますか」

 秋元さんの思いをつづった手紙です。日本共産党の大山とも子都議が、2022年度決算を審議する特別委員会(23年10月23日)で読み上げ、大学前を含めて音響式信号機が当たり前になるよう設置予算を思い切って増やすことを求めました。

 大学ゼミの友人らは、オンライン署名「チェンジ・オーグ」で署名に取り組むことにしました。「秋元さんは、私たちにとって大切なお友達です。気遣い屋さんで、いつも人を思いやってくれる秋元さんに、その優しさを返したい」。自分たちの思いを書き込み賛同を呼びかけました。同大社会学部は公式X(旧ツイッター)で協力を呼びかけました。東視協も点字署名に取り組みました。

自分を信じて前へ

 そして3月2日、ついにバス停手前の横断歩道を含めて、音響式信号機の設置が実現したのです。

 東視協の山城さんは、「多くの人の力で点字ブロック、音響式信号機、エスコートゾーンという視覚障害者が街を歩く時の3本柱が整備された」と評価。友人の榎本涼花さん(21)は「努力が実って感無量です。本当に良かった」とにっこり。中野泰彦学部事務長は「先生、職員、学生みんながサポートしてくれた。何より秋元さん自身が頑張った姿にみんなが感化された。うれしいですね」と笑顔を見せます。

 秋元さんは「ゼミの仲間や東視協の人たち、活動に関わってくれた人たち全てに感謝したい。うまくいかなかったらという不安はありましたが、活動を通して思いが可能になることを実感できました。今回の経験を生かして、これからも困難なことがあっても、自分を信じて仲間の力をかりながら頑張って進んでいきたい」

音響式信号機を操作する秋元さん

音響式信号機 目が不自由な人のために歩行者青信号の開始を擬音やメロディーなどで知らせます。2022年末時点で都内の信号機1万5922基のうち音響式は2782基(17%)。バリアフリー法(2000年施行)に基づき自治体が重点整備地区を指定して進め、地区外でも要望を踏まえて地元警察と自治体が協議し、実現するケースもあります。

東京民報2024年3月31日号より

関連記事

最近の記事

  1. 街頭で訴える川上区議  私は10年にわたり、世田谷区の民主商工会の事務局員として経済不況や消…
  2.  都立高校の入試に活用してきた中学校英語スピーキングテスト(ESAT‐J)を中学1・2年生にも実施…
  3. 岩波ブックレット 2023年720 円+税かきざき・めいじ 帝京大学法学部教授。1961 年秋田県…
  4.  悲しい連鎖は終わり/暴力もレイプも終わり/わきまえることももうやめて/女たち誰のものでもない(「…
  5. 文藝春秋 2023 年1760 円(税込)ぬかが・みお 1990年生まれ、茨城県出身。2015年、…

インスタグラム開設しました!

 

東京民報のインスタグラムを開設しました。
ぜひ、フォローをお願いします!

@tokyominpo

Instagram

#東京民報 12月10日号4面は「東京で楽しむ星の話」。今年の #ふたご座流星群 は、8年に一度の好条件といいます。
#横田基地 に所属する特殊作戦機CV22オスプレイが11月29日午後、鹿児島県の屋久島沖で墜落しました。#オスプレイ が死亡を伴う事故を起こしたのは、日本国内では初めて。住民団体からは「私たちの頭上を飛ぶなど、とんでもない」との声が上がっています。
老舗パチンコメーカーの株式会社西陣が、従業員が救済を申し立てた東京都労働委員会(#都労委)の審問期日の12月20日に依願退職に応じない者を解雇するとの通知を送付しました。労働組合は「寒空の中、放り出すのか」として不当解雇撤回の救済を申し立てました。
「汚染が #横田基地 から流出したことは明らかだ」―都議会公営企業会計決算委で、#斉藤まりこ 都議(#日本共産党)は、都の研究所の過去の調査などをもとに、横田基地が #PFAS の主要な汚染源だと明らかにし、都に立ち入り調査を求めました。【12月3日号掲載】
東京都教育委員会が #立川高校 の夜間定時制の生徒募集を2025年度に停止する方針を打ち出したことを受けて、「#立川高校定時制の廃校に反対する会」「立川高等学校芙蓉会」(定時制同窓会)などは11月24日、JR立川駅前(立川市)で、方針撤回を求める宣伝を21人が参加して行いました。
「(知事選を前に)税金を原資に、町会・自治会を使って知事の宣伝をしているのは明らかだ」―13日の決算特別委員会で、#日本共産党 の #原田あきら 都議は、#小池百合子 知事の顔写真と名前、メッセージを掲載した都の防災啓発チラシについて追及しました。
ページ上部へ戻る