昨年8月に出版された「これからの男の子たちへ 『男らしさ』から自由になるレッスン」(大月書店)がインターネットでも話題になり、男の子を育てる女性だけではなく、「ジェンダー・平等って何だろう」「男らしさってなんだ」と思っていたという男性からも好評です。著者である弁護士の太田啓子さんに、出版のいきさつと思いを聞きました。
弁護士の仕事をする中で離婚事件、特にDV(ドメスティックバイオレンス)やモラルハラスメントの事案で被害者の代理人をすることがとても多くあります。その中で社会にある性差別行動が家庭内にもそのままスライドして存在することを日常的に感じます。
男女の収入の格差に加え、子育てや介護など家の中の仕事が女性に丸ごと押し付けられがちで女性の経済力を奪っています。被害を受けていても、経済を理由に離婚できず家庭内で個人の尊厳がないがしろにされていることを見る機会が頻繁にあります。
このような状況や性差別を無くしたいという気持ちを日々思っていて、自分も男の子2人の母親になる機会がありました。
初めは性別は関係ない赤ちゃんですが、親がジェンダーバイアスフリーに育てようとしても、家庭の内外や社会が息子に対して「男の子はこうだよ」と刷り込んでいくようなことが多く感じられました。「あぁ、男の子はこうやって男の子に育ってくのだな。社会により男の子にさせられていくように仕向けられるところがあるな」と思いました。
私にも女性への呪いがありますから、それを解こうと思ってきましたが、男性にも男性の呪いがあります。これは家庭だけでは解決できる問題ではないとこの本を書きました。
子育てしながらなので睡眠をずいぶん削りました。コロナ緊急事態宣言の休校期間は日中はパソコンも子どもにとられちゃうし、夜中や明け方に書いていました。
子育ての試行錯誤
私も子育て当事者なので、「こういうことに悩んで試行錯誤して、これでいいのか本当は不安だし、他の人はどうなのか知りたい」という気持ちを持ちながら書いていました。コロナがなかったら読書会をやりたいくらいです。
インターネットで感想やレビューを見ると、すごくいっぱい投稿されています。女性の子育て世代の感想は「共感する」とか、「もやもやしていたことに言葉があてられてすっきりした」という内容が多くありました。また「身近な男性に読んで欲しい」や、「夫が読んだら思いが通じるようになった」というもの、「自分もこういうことを言っていたのでギクッとした」というのもありました。
男性の感想も多くてすごく喜んでいます。反発は少なくて、真っ直ぐ受け止めてくれています。「自分に当てはまることが多い。過去の自分はアウトだった」や、「顧みる思いで冷や汗をかく」という他に、「男同士の悪乗りに無理して合わせていた。息子世代にはそうさせたくない」という、次世代に向けての思いがつづられていました。あと大学生は「今読んで良かった」というものもうれしいです。
男性の共感度に世代と地域も関係あります。世代が上になるとそれまで築いてきた価値観が変わることにハードルが高いのは当然だと思います。孫がいる70代のおじいちゃんで「義理の父が九州男児ではっきりモノを言う女性を変人扱いしたり、男の子が生まれると跡取りという人だった。私に男の子の孫が生まれるとこの本に付箋を付けて読んでいた。何年たっても人間勉強だな」とありました。
変わろうと思えば、人は何歳になっても変われます。間違いを認め、時代に合わせて柔軟に変わり、バージョンアップできる人はいくつになっても素敵です。
あなたが当事者と
ジェンダー問題になると男性は「自分が怒られる」と防御態勢に入るようですが、性差別構造は一人で作ったものではなくても、無関心は多少非難されても仕方ありません。間違いを認めて改善すればいいのに、「俺は差別してない」「男もつらいよ」と言い張るのは違いますね。現状を認めるのが強さで、ねじ伏せる、封じ込めるような粗暴さが強さではない。それはコミュニケーションではありませんよね。
離婚事件は性差別が色々とありますが、 「誰のおかげで生活ができるんだ」というのは典型的で、経済力は一つの力です。男女対等でいようとするならば、より力のあるものが意識しなくてはならない。対等であることが嫌で自分が上位にいないと気が済まない人もいます。そういう人は許されて良いはずはない。
国際的にも日本のジェンダーギャップ指数が低い要因は、政治経済の分野での男女平等が著しく遅れているからです。企業・団体の女性管理職が増えないと変わらない。
各自の持ち場で、多少の波乱を起こすことを恐れずに声を上げることが大事ですね。周りも想像力と共感性を持って欲しいです。「差別は関係ない」のではなく、あなたが当事者なのですから、と思います。また、次世代に素敵な男性が増えたらいいと願っています。未来に希望を持っています。
【東京民報2021年2月28日号より】