「汗が目に」安全守れない 路線バス 暑さ対策で制帽緩和の動き〈2021年8月8日・15日合併号〉
- 2021/8/8
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連日、35度を超し熱中症アラートが発令される暑い日が続いています。こうした中、路線バスの運転士も経年的にクールビズが推進され、制帽やネクタイの着用が免除されています。しかし一部の会社ではかたくなに脱帽を認めず、運転士らは労働組合を通じて「暑さでボーっとする」「運転中に汗が目に入ってしまう」などとして脱帽を要求しています。制帽を身に着けず乗務し、解雇など処分を受け争議に発展したケースも存在します。7月24日、制帽を着用した名古屋市営バスの運転士が運転中に意識がもうろうとして衝突事故を起こし、受診の結果は熱中症と診断されました。都民の命を乗せハンドルを握る運転士は大丈夫なのか、都内を運行する13社を調べました。
かたくなに認めない会社も
昨年来、路線バスは新型コロナウイルス感染症の対応でマスク着用と併せて運転席をスクリーンで遮へいしているために、「運転席は熱がこもり、頭がボーっとすることもある」と運転士は訴えます。特に路線バスは折り返し地点での待機中に環境庁の進めるアイドリングストップでエンジンを切ることもあり、炎天下では車内気温は急上昇。運転士の熱中症予防・対策は急務です。
国交省は昨年6月、「夏季における運転者の体調管理の徹底について(要請)」との連絡文書で「これまでのクールビズに加え、脱帽をはじめ一層のクールビズの取組を進め、運転者が乗務しやすい環境を確保」と指示しました。
各社の対応は
ほとんどの会社は期間を定めノーネクタイと脱帽を実施していました。中でも小田急バス、京浜急行バスでは昨年、制帽を廃止。京浜急行バスでは「コロナ禍において、衛生面を考慮し廃止」との回答でした。同様のケースでは看護師のナースキャップも、作業中の接触や細菌の感染源となる危険を回避するため廃止された経緯があります。
しかし京王電鉄バス、西東京バス、神奈川中央交通バスの3社は脱帽を認めていません。京王電鉄バスでは「制帽制服と一体で、お客様への安全と信頼の証」との回答が返ってきました。
一方、脱帽を実施するバス会社では、そのことによるクレームはないと言います。「運転士の健康維持が一番だ」との声が多く占めました。
また、熱中症予防のために乗務時に水筒やペットボトルなどの携行を推奨し、待機時間だけでなく停留所などでのこまめな水分摂取を積極的に促す会社もありました。
安全と命優先で
運転士は道路運送法で「運転士は制服を着用しなければならない」とされています。①乗客の命を預かる重要な仕事で、業務の意味を運転士が常に自覚するため②乗客から見て誰が運転士かわかり指示や誘導に従ってもらいやすくなるため―などとされています。制帽も運転士の制服の一部とされています。ただ、法の制定は1954(昭和29)年、気象庁の記録によると当時の8月の「日最高気温」(平均値)は31度ですが、2020年は34.1度で温暖化の影響と熱中症の問題が顕著です。
長く停車し営業所を出発する時には車内が50度にもなることもあり、空調だけでは厳しく出庫前にホースで車体に水をかけて冷やすこともしょっちゅうだといいます。また、車内待機時間10分でも炎天下では水分補給などの熱中症対策が不可欠だと医師も懸念します。
脱帽、水分摂取を積極的に推進する会社で事故が多発していることはなく、むしろ運転士が乗務中に熱中症を発症する方が乗客の「安全・安心」を損なうと各社が回答しています。「大切なのは、お客様と乗務員の安全と命です」との言葉通り、名古屋市営バスの事故を教訓に、運転士の熱中症対策を最優先に考える時です。
〈東京民報2021年8月8日・15日合併号より〉