前進座は5月の国立劇場公演で、上演870回を数える代表作「魚屋宗五郎(さかなやそうごろう)」に、当代の俳優陣が挑みます。建て替えにより、現在の国立劇場では“おしまい”公演になります。出演する、玉浦有之祐(たまうらゆうのすけ)、松浦海之介(まつうらかいのすけ)、嵐市太郎(あらしいちたろう)の若手俳優3氏に対談してもらいました。
―それぞれの役柄の紹介をお願いします。
有之祐 おつた役を勤めます。主人公、宗五郎の妹で、お殿様に見初められてお屋敷にご奉公して寵愛を受けている。幸せいっぱいで花道から出て参ります。
幸せだったはずのおつたが、濡れ衣を着せられることが、宗五郎が絶っていた酒を飲むことになる理由となる役なので、そこをしっかり表現できるようにと思っています。
海之介 岩上典蔵を演じます。このお芝居で唯一と言っていいほどの悪役、敵役ですね。おつたに横恋慕して、欲望のまま動いてしまう。何一つ良いことをしない悪人ですが、先輩たちが演じた典蔵は、歌舞伎独特の、人間らしく、どこか可愛げのある役柄です。自分もそういう、ある意味で魅力的な人物として演じられたらと思います。
市太郎 浦戸紋三郎を勤めます。おつたが奉公に上がった旗本の家老の弟です。典蔵に言い寄られたおつたの悲鳴を、たまたま聞いて、駆けつけたら、それを典蔵に逆に利用されてしまう。
品格のある、真面目な、まさに二枚目という役柄なので、お芝居に対して実直に取り組むことが、そのまま表現につながるのだと思っています。
太い世界につなぐ
―宗五郎が次第にお酒に酔っていく場面が有名です。そこにつながる大事な場面を、3人で演じることになりますね。
市太郎 私は子どもの時の初舞台が、この場の幕開きに出る丁稚でっちの役でした。その頃から、何度もこのお芝居を見るなかでも、3人で演じる場面の重要さを感じてきました。
海之介 若手3人でどれだけ食いついていけるか。お芝居の一角として、「若手が頑張ったね」ではなくて、先輩たちがつくる大きな太い世界観に、きちんとつながる場面になるように、稽古でしこたま絞られて、つくっていけたらと思います。
有之祐 先ほどもお話したように、おつたの幸せさが印象に残ってこそ、宗五郎の怒りが観る人に伝わるし、この場面を印象付けられてこそ、宗五郎の家で伝えられる、おつたの悲劇を、観客にリアルに想像してもらえる。そういう場面だと思います。3人だけで勤めるのはとても怖いのですが、そこに私たちが挑むことが、93年の前進座の歴史を100年、110年と重ねていくことにもつながるのだと思います。