空にたなびく鯉のぼりは男児の健やかな成長を願うもので、五月の晴れた空に泳ぐ姿はおなじみの光景です。東京で唯一の手描き鯉のぼり職人である三代目金龍・金田鈴美さん(30)の手掛ける鯉のぼりは大きく膨らんだ腹部が特徴で、空気をたっぷり含んで見事に大空を泳ぎます。三代目は「この子たち(鯉のぼり)が、かわいくてしかたないです。『ちゃんと仕事をしてきてね』という思いでお客様に送り出しています」と、自作の鯉のぼりに目を細めていました。
「元々、鯉のぼりが大好きです」―秀光(しゅうこう)人形工房に所属し、手描き鯉のぼりの製造・販売にたずさわる三代目金龍。特に初代の川尻金龍さんの形が大好きだと語ります。
父が初代に弟子入りした二代目、祖父はひな人形職人、母がひな人形と羽子板を手掛ける職人という環境で育ち、12歳の頃から父の仕事を自然と手伝う中で、「自分もやるんだろうな」との思いを抱いていたと言います。本格的に修業を始めたのは美大の卒業の頃だったと振り返ります。「時代の流れの中で、廃れつつある手描き鯉のぼりをよみがえらせたい」との気持ちに突き動かされました。
金龍の鯉のぼりの特徴のひとつであるふっくらとしたお腹について、「初代は『鯉のぼりは太らせないと』と語っていました。そうすると楽しそうに踊るようにたなびくんです」と語ります。
金龍では吹き流しも特徴的。略式の五色だけのものではなく龍の絵柄が手描きで描かれており、名前や家紋も描いてもらえると大人気です。
室内に飾る1㍍サイズも
三代目が1年間で描き上げる鯉のぼりは20セットほど。吹き流し、黒、赤、青などを描いていきます。2㍍の鯉のぼりで白布(綿布)に描くのに3日、自然乾燥させたのちに縫製に4日、仕上げに1日、撥水加工に1日を要します。サイズはおおむね0・8㍍~10㍍くらいのものまで作成し、大小に関係なく手間は同じだといいます。最近では室内に飾られることを想定した、1㍍のものも手掛けています。