強制入院「精神疾患もなく違法」 「引き出し屋」控訴審判決〈2023年10月1日号〉

 引きこもりからの「自立支援」をうたう“引き出し屋”と呼ばれる業者に自宅から暴力的に連れ出された男性が、精神病院に強制的に入院されたことは違法だとして、入院先の成仁病院(足立区)の運営法人に損害賠償を求めた裁判の控訴審判決が9月21日、東京高裁でありました。谷口園恵裁判長は、入院を違法とした一審判決を支持し、病院側に308万円の支払いを命じました。

記者会見で話す宇都宮氏(左から2 人目)ら弁護団=9月21 日、千代田区

 男性は30歳代で関東圏に在住。2018年5月3日、同居する父親が契約した業者「クリアアンサー」(19年に破産)の職員によって暴力的に自宅から連れ出され、同社が運営する「あけぼのばし自立支援センター」(新宿区)の地下部屋に閉じ込められました。

 5月11日に、同社が男性を成仁病院に連行。病院が、精神保健法に基づき本人の同意なく強制入院させる「医療保護入院」で50日間、入院させました。このうち、5月14日までは、身体拘束され、オムツでの排泄も余儀なくされました。

 男性は、退院後に施設を脱出し、支援者に保護されました。男性がクリアアンサーを訴えた裁判でも、損害を認める判決が2022年に確定しています。

指定医の診察なく

 裁判で重要な争点となったのが、医療保護入院の要件である精神保健指定医の診察などの手続きが適正に行われたか、です。

 男性と弁護団は、入院を決めた際の電子カルテの記録を分析。精神保健指定医ではなく、担当医の診察で入院が決められており、違法だと主張しました。

 一審判決は、指定医による診察が行われておらず、さらに男性に精神障害があったとも認められないとして、入院は違法だと断じました。また、病院側が男性の同意なしに、医療情報をクリアアンサーに提供したことも、プライバシーの侵害と認定しました。

 病院側は控訴審で、精神保健指定医が駆け付けて、入院を決定したと主張。しかし、判決は、電子カルテの記述を詳細に分析し、「むしろ、精神保健指定医が診察の場所にいなかったことをうかがわせる」として、病院側の主張を退け、一審判決を「相当」だとして病院側の控訴を棄却しました。

人権侵害を防いで

 高裁判決を受けた会見で、男性は「精神疾患がない人を、必要な診察もせず、精神障害者として強制入院させたことが認定された。医療の信頼にかかわる重大な事実だ」と憤りました。

 神出病院(神戸市)や滝山病院(八王子市)などの精神病院で、入院患者への虐待事件も明らかになっているもと、日本の精神医療の仕組みそのものを問う発言も、弁護団から相次ぎました。

 宇都宮健児団長は、障害者権利条約にもとづく国連の権利委員会からも、日本の精神科病院の強制入院は「障害に基づく差別」だとして、法令の廃止などが勧告されていることを指摘。今回と同様の被害が埋もれている可能性を示唆し、「精神病院における人権侵害をチェックする機能が必要だ」と強調しました。

東京民報2023年10月1日号より

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