医師増員で医療崩壊防げ 医師・医学生らがシンポ〈2024年1月28日号〉

 医師と医学生でつくる「医師・医学生署名をすすめる会」は20日、医師不足をめぐる深刻な現状と解決策を探るシンポジウム「今、医師不足で何がおきているのか」を千代田区内で開きました。

医師不足を訴える本田宏氏(左)=20日、千代田区

 日本は人口当たりの医師数がOECD(経済協力開発機構)加盟国の中で6番目に低く、医師数はOECD平均と比較すると13万人不足。医学部卒業生数は、OECDで最低です。

 医師が自己犠牲的な過重労働に苦しむ状況において、厚生労働省は今年4月から、医師の働き方改革を本格的に施行します。時間外・休日労働時間に上限規制が設けられますが、救急、在宅、へき地医療、がん拠点病院のほか、臨床・専門研修医の雇用施設など、一部の病院では過労死ラインの約2倍にあたる1860時間(月155時間相当)の時間外労働を容認。宿直や日直は管轄の労働基準監督署に許可を申請すると、働いても労働時間とみなされません。

 医師増員なき医師の働き方改革がもたらす医療のさらなる衰退を懸念し、同会は昨年12月、「医療崩壊を防ぐための医師増員を求める請願署名」を、医師と医学生を対象に開始。署名は、▽医師養成数がOECD平均並みとなるよう医学部定員を増やす▽診療報酬の抜本的引上げ▽医学研究・医学教育が適切に行える予算措置-を求め、6月頃に衆参両院へ提出する予定です。

抑制政策の転換こそ

 シンポジウムでは、長野中央法律事務所の村上晃弁護士が「人権としての『医療へのアクセス』が保障される社会の実現を目指して」をテーマに基調講演。日本弁護士連合会が昨年10月に開いた人権擁護大会のシンポジウムで、「医療費の上昇は経済成長の足かせ」として国が進める医療費抑制政策は、エビデンス(証拠)の乏しさが明らかになったと報告。医療従事者の人権を犠牲にすることで、患者の人権「医療へのアクセス」を支えることは限界を超えており、「国は双方の人権を侵害している」と強調。「医療抑制政策の転換に尽きる」と主張しました。

 登壇した全国医師ユニオン代表の植山直人氏は、「私たちが実施した調査で、日常的に死や自殺を考えている医者が6.9%、20代の医者は14%いる」と話し、医師の働き方改革は「医師の人権を踏みにじる改革である」と批判。医療産業は世界的に成長しているにも関わらず、「中心を担う医師数を抑制するということは、医療産業自体を抑え込んでいる。非常におかしなこと」と指摘しました。

 オンラインで参加した全日本医学生自治会連合の医学生は、「医師の働き方、生活・職場環境を見て、自分たちが将来医師としてやっていけるのか、日本の医療は回るのだろうかと、不安を抱かざるを得ない状況になっている」と、心境を告白。「環境が厳しいほど、ハラスメントが横行する。心身ともに健康に働ける職場実現のため、余裕のある医療現場をつくってほしい」と述べました。

 日本女医会会長の前田佳子氏は、「2020年時点の女性医師数は7万7546人。OECD加盟国中、最下位」と指摘。「今、医療に求められているのはダイバーシティー(多様性)であり、これはすべての人が働きやすい社会の実現につながる」と訴え。労働時間、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)、ハラスメントの改善が必要として、「最も大切なのは意識の改革」と力を込めました。

 司会進行を務めた医療制度研究会理事長の本田宏氏は、「医療・医療提供者が国策に奉仕させられることは、国民の命が国策に奉仕させられるということ」との内田博文九州大学名誉教授の言葉を引用し、「医師を増やさなければ医療事故にもつながり、安全は守れない」と提起しました。

東京民報2024年1月28日号より

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