2022年からのロシアによるウクライナ侵略や、昨年からのイスラエルによるガザ地区の空爆など、他国での紛争が終わりをみせる気配はありません。こうした中、直接関係していない日本の航空機も少なからず影響を受けています。国際的な観点から日本の航空は今後、軍事紛争に巻き込まれる危険はないのか-。航空関係者に聞きました。
危険増加させる戦争加担
現在の運航状況について、航空安全推進連絡会議(国内の航空関係者で組織される団体)に問い合わせたところ、「2022年3月以降、現在まで本邦航空会社はじめ、西側諸国の航空会社はロシア上空を迂回して運航を継続しています。本邦航空会社の場合、米国アラスカおよびカナダ、グリーンランドを経由して欧州まで飛行を実施しています。復路は東欧やトルコ、中国などを経由しています。その結果、飛行時間の長時間化と燃料消費の増大という影響が出ています」との回答がありました。さらに「トルコ東方のアゼルバイジャンでは戦闘激化による治安の悪化が懸念されており、Conflict Zone(紛争地域)に指定された場合、上空通過が困難になる懸念があります。それが現実となった場合、欧州路線への更なる影響が懸念されます」とのことでした。
航空会社の現役機長でJAL不当解雇撤回争議団の和波宏明・副団長は「日本がロシアを批判する立場をとって以来、欧米などへの最短経路となっているロシア上空を回避する迂回ルートを取らざるを得なくなり、これにより飛行時間が増えたために乗務員の負担が過重になり、その分の燃料を積み増すので当然、運賃にも跳ね返ってきます」と話します。
「管制官からダイレクトルート(迂回なし)の指示を受けることもあるのですが、紛争地域ギリギリの危険な所を通ることの危険性も疲労により感覚がマヒして感じなくなってしまうかも知れません。誤爆などの大きな悲劇が起きるまでは漫然と飛んでしまうこともありえる」といいます。
民間空港の軍事利用は危険
これまで日本は平和な国として中東などの紛争にも巻き込まれることがありませんでしたが、第二次安倍政権以降、“アメリカの手先”という見方をされることもあり、紛争地域で日本人ジャーナリストが敵視されターゲットになり命を落としたりしている現実もあります。
和波氏は「日本が他国から恨まれるような武器の輸出などの行為や、紛争にかかわることが増えた時は危険にさらに近づくと思います」と指摘。ロシア上空だけではなく、台湾をめぐって米中の摩擦が深まれば中国上空も飛べなくなることも懸念します。「日本の民間航空機が安心して飛べるエリアが減り、安心できないエリアが増える可能性がある」とし、「民間航空の軍事利用に反対してきた私たちが解雇されて以来、JALでは自衛隊のチャーター機が増えて他国の軍隊を運んだりしています。これは民間航空が軍事オペレーションに組み込まれつつあるということです」と語ります。
「アメリカの民間航空会社は、ベトナム戦争当時兵士などを運んでいました。米国のパンナム航空はアメリカの象徴的エアラインとして、反米テロの標的になってきました。そのために湾岸戦争当時、パンナムを利用する乗客が激減し、倒産したことからも航空産業は平和産業であるべきです。その考えはJALの経営陣と一致するところです」と和波氏。
昨年10月には陸上自衛隊と米海兵隊の共同訓練で、大分や奄美などの民間空港を利用。航空労組連絡会(航空連)が12月に『民間空港の軍事利用に反対します』との声明を出し、敵対国から民間空港が軍事拠点として攻撃される危険性に触れています。和波氏は「ウクライナの侵略があった2022年2月24日に82カ所が爆撃されたとのことですが、そのほとんどが工場等の軍事施設と空港でした」と説明。
「安保法制の一つである『特定公共施設利用法』では民間空港の使用優先順位が定められていて1位が米軍、2位が自衛隊です。今のところ米軍と自衛隊が使っていないので、羽田空港を民間航空会社であるJALや全日空などが運航できているのです」と危険性を上げました。
和波氏は「他国から恨まれることなく安心して世界の空を飛べるということが、航空運送事業の安定のために必要不可欠です。他国の紛争や戦争に加担するのではなく、平和憲法を持つ国として日本は今こそ積極的に世界平和の構築に向けて役割を果たすことが必要な時です」と訴えています。
東京民報2024年1月28日号より