国と都初の病床確保要請 応じないと病院名を公表〈9月5日号より〉
- 2021/9/5
- 新型コロナ対策
厚生労働省と東京都は8月23日、改正感染症法に基づき、都内の医療機関に新型コロナウイルスの患者受け入れと専用病床の確保、医療従事者の派遣を要請しました。
同法に基づく要請は、これまで大阪府や札幌市などが行っていますが、国による要請は初めて。「不急の入院・手術の延期など、通常医療の制限」も視野に入れて協力するよう要請しています。
小池知事は「デルタ株の猛威に総力戦で臨む必要がある」と語りました。正当な理由なく従わなかった場合、より強制力のある「勧告」に切り替え、それでも従わない場合は病院名の公表ができるというものです。
都内のコロナ対応の病床は、確保数6406床に対し、8月25日時点の入院患者数4112床。使用率64%に及び、医療のひっ迫は深刻です。
ただ、現状でも各医療機関は必死の努力でベッドや人材をコロナ対応に充てており、病院名の公表という「脅し」による要請がどれだけ病床の確保につながるかは、不透明です。現場からは、医療を支える対応と、臨時の医療施設の設置など現場の実態に合った対策、感染症対策の基本に立ち返ることこそが必要という指摘が上がります。
全国保団連 住江憲勇会長に聞く「現場支える対策こそ」臨時の医療施設が不可欠
コロナ病床の確保のためにどんな対策が必要か、国と都の要請をどう受け止めているか、医療現場の実態に詳しい住江憲勇(けんゆう)全国保険医団体連合会会長に聞きました。
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―国と都の病床確保の要請をどう受けとめていますか。
新型コロナに対応してきた1年8カ月間で、医療現場は疲弊しきっています。そのなかでも、国民的な困難に対して、必死に医療を支えています。
現状でも各医療機関は精一杯、コロナ病床を確保しようと対応しており、きちんとした支援と対策なしに要請だけしても、確保につながるか疑問です。
―感染者が急増する一方、コロナ病床が増えない現状はなぜでしょうか。
診療報酬を極めて低く抑える政策のもと、病院の経営は厳しく、医療法人の利益率は平均2.7%ほどです。一般の経営では、利益率が最低7〜9%ないと設備投資ができないと言われているのに、その半分以下です。このため、各医療機関は普段から、ベッドを満床にして、ギリギリの人員で経営しており、緊急事態に対応するベッドを増やそうにも、増やしようがありません。
日本は小規模な医療機関が非常に多いことも影響しています。感染症患者の受け入れに必要なゾーニング(病原体汚染区域の区分け)など、不可能な施設がほとんどだからです。
今回の国と都の要請で、病床確保を求めているのは、170ほどある入院重点医療機関と、230ほどある回復期支援病院です(表)。残りの病院や診療所などに要請しているのは、施設への人材派遣や、在宅医療への協力で、そこは分けてとらえる必要があります。
こうしたもとでも、小規模でもなんとかコロナ病床を確保しようとしている病院や、発熱外来を担っている開業医が多くあります。
厚労省は、そうした実態がよく分かっていながら、医療現場がコロナ患者を受け入れ可能なの
に、受け入れていないように描くのは、とんでもないことです。
―コロナ対応の病床のひっ迫に、どんな対応が必要でしょうか。
理想はコロナ対応の入院病床を増やすことですが、それには時間がかかります。
医療機能を持った宿泊療養施設など、臨時の医療施設をつくって、そこで中和抗体カクテル療法
などで重症化を防ぐ、それが待ったなしの課題です。こうした臨時的な施設であれば、開業医も協
力しやすいでしょう。
国や都は自宅療養の人たちへの往診体制を強化するといっています。医療現場は往診についても
奮闘していますが、一人の医師が対応できる人数には限度があります。
医療資源の活用の方法が、現場に合っていないと感じます。
―いま求められる対策は何でしょうか。
菅首相は「明かりは見えてきた」と言っていますが、現場の実態からかけ離れています。
安倍政権、菅政権とも、専門家の提言を、一顧だにせずに無視して、楽観的な推測による後手後手
の対応を続けてきました。それが、今の事態を生んでいます。
感染症対策の4つの原則、①徹底的・大規模な検査体制②国民に社会活動の制限を求めるのに伴う十分な補償③ワクチン接種の早期の徹底④政府の原則自宅療養という方針を撤回して早期の治療につなげること―に立ち戻るしかありません。
診療報酬をきちんと引き上げて、医療現場を支える必要があります。「地域医療構想」で病床を削減する方針など、社会保障を軽視する新自由主義の政策が、国民の命を脅かすことがはっきりと示されました。それとの決別が不可欠です。
〈2021年9月5日号より〉