昨年11月24~12月8日に開かれた第4回渋谷区議会定例会で、長谷部健区長が突如、渋谷区立渋谷図書館(東1丁目)を3月末に廃止する条例案を提出したことに対し、住民や元職員らが存続を求めて声を上げています。
廃止条例案を耳にした元渋谷区図書館職員の男性は、周辺住民に事態を知らせるためにビラを配布。住民有志による「渋谷区の図書館を考える会」を結成しました。

会は廃止案に慎重な審議を求める請願を提出。議会でも突然、議題に上がったことから「住民への説明が不十分」として、全会派一致で継続審議となりました。2月22日から始まる第1回区議会定例会で、引き続き審査されます。
渋谷図書館は1915年に開設された、同区で最も歴史のある図書館。77年に現在の場所で、赤レンガの建物に整備されました。蔵書数は約10万点でCDも貸出。133の閲覧席に、親子で本や絵本が楽しめる子ども室も備え、区内に10館ある図書館の中で2番目の広さ。年間約5万3700人が利用しています。
区の説明によると渋谷図書館の廃止理由は、建物の老朽化。空調設備が故障しましたが、古い機械のため修理が難しく、昨夏は1カ月ほど臨時休館しました。
定例会の質疑の中で、10年に1度は必要といわれる屋上防水工事が30年間も行われておらず、ずさんな管理の実態が判明。そのため漏水や壁のタイルが落下するなど、経年劣化は深刻な状態です。
区は建て替えようにも渋谷図書館の前面道路が狭く、図書館の建物と隣接する民間建造物の擁壁がつながっているなど、さまざまな問題をあげ、メンテナンスを怠ってきた責任には触れず、工事には莫大な費用がかかると廃止に固執しています。
区民無視の暴挙
日本共産党渋谷区議団の牛尾まさみ区議によると、「現区長はこの間、新島青少年センターや檜原自然の家など、子どもや区民にとって大切な施設を廃止してきた」と指摘。同区議団のトマ孝二区議は、「文化・教育施設の大切さを考慮していない。修理に多額の経費がかかることを理由に廃止することは道理がない。図書館は大事な施設なのに、区長は無くすことを平気で考えている」と語り、存続を求めて奮闘する決意を示しました。

現在、渋谷図書館は予約した本やCDの貸出・返却、新聞・雑誌の閲覧のみ実施。区長は図書館廃止後、徒歩5分ほど離れた白根記念渋谷区郷土博物館・文学館に本の貸出・返却のみを行う窓口を設け、区立学校の改修・建て替え時に図書館を併設したい考えです。
渋谷区の図書館に30年近く勤務した、会の事務局を務める男性は「図書館は貴重な知的財産。空白地域ができると、困る人がたくさん出てくる」と強調。会のメンバーは次の定例会に向け、渋谷図書館近くのスーパー前などで、廃止の見直しを求める請願への署名活動を積極的に実施しています。
請願書では「地域間格差と公共サービスの不均等が生じる」「区民の文化水準を下げることにつながる」「メンテナンスを怠ったうえでの廃止は、行政の責任放棄」と訴え、改修や建て替えも含めた現地域での存続を要望。区議会の傍聴も、住民らに勧めています。
署名に協力した高校生と中学生の子を持つ母親(47)は「子どもが幼いときに利用していた。大切なものに出会える場所」と思い出を語り、仕事中に通りがかった男性(41)は「『岩波ホール(神保町のミニシアター)』の閉館も決まった。文化・教育施設は衣・食・住と同じくらい大切」と話しました。渋谷図書館に本を予約してきた女性(80)は、「閉館は寝耳に水。定年退職後、散歩の途中に寄っている。渋谷区は財源があるでしょ」と驚きを見せました。
(東京民報2022年1月30日号より)