ピッコラーレが大切にしている支援の一つに、「面談・同行支援」があります。私たちと電話やメールのやり取りをする中で解決の糸口が見え、そこから先は自身の力で課題を解決していく相談者もたくさんいますが、一方で、危機的な妊娠をしている状況下にあって、その先の支援に確実につながるために伴走が必要な方たちもいます。
そのような場合は、その方がいる場所まで相談支援員が出掛け、直接お話を伺い、保健センターや福祉事務所などの行政窓口、医療機関、警察や法テラスなど、その方が必要とする様々な連携先に付き添うサポートをしています。
同行支援に至るケースの中には、公園やネットカフェ、友人宅や恋人ではない男性の家などを転々とし、居所が定まらず「漂流」している、あるいはその状況に陥る可能性のある若年妊婦(未成年を含む10~20代半ば頃まで)からの相談も少なくありません。
漂流する若年妊婦の多くは、妊娠をするずっと前から、貧困、虐待、暴力、不安定な就労、精神疾患など、自分だけでは決して解決することのできない、いくつもの社会的な困難を抱えたまま生きています。
本来なら誰もが保障されるべき生活の基盤となる衣食住もままならない状況に置かれ、安心できる居場所もなく、誰かにSOSを出しても受け止められず、ひたすらなんとか生きのびてきた状況下での妊娠。そしてこの妊娠によって、なんとか維持してきた日々すら奪われてしまうかもしれない、そんな恐怖が原因の「妊娠葛藤」が日本には存在している。そのことにどれだけの人々が気づいているでしょうか。
厳しい状況の中で、勇気を振り絞って出してくれた漂流している若年妊婦からのSOS。しかし、それをしっかりと受け止め、ゆっくり安心して妊娠のこと、今後のことを考えられる空間や時間を提供できる「若年妊婦のための居場所」が日本には不足していることを、これまでの活動を通して痛感してきました。
「足りないのだったらつくろう」。若年妊婦に「いつでもおいで」と言える安心で安全な「ホーム」を、彼女たちの声を聞きながら、信頼できる仲間、地域の人たち、そして応援してくださる人たちと一緒につくろう。そうして始まったプロジェクトが「project HOME」です。
助成金やご寄付でのご支援をいただき、2020年春、無事にHOME第一号「ぴさら」(フィンランド語で「しずく」の意味)を豊島区に開設し、これまでに宿泊/デイ利用を含め、10人を超える妊婦の方が利用しています。(特定非営利活動法人ピッコラーレ事務局長 小野晴香)
(東京民報2021年3月21日号より)