
首都直下地震とはどういうものかに話を進めます。首都直下地震で想定されるのは、マグニチュード(M)7クラスの地震です。気象庁の統計を見ると、日本とその周辺で1868年から2016年の148年間に、M7以上の地震は208回起きています。つまり、毎年1~2回は起きるということです。
日本における海で起きる地震と陸で起きる地震を大別すると、表のような特徴の違いがあります。多くの地震は海で起きており、最大規模は陸がM8、海がM9と海の方が大きくなります。しかし、陸で起きる地震は、市街地に近い場所で起きるため、強い揺れに人や建物がさらされることが決定的な違いです。両者とも被害は甚大になります。
首都直下地震は、地震学的に何かの特徴があるのではなく、防災上、あるいは社会現象として重要な地震です。ハザード(災害誘因=自然現象としての社会への外力)としては、M7という日本周辺では「並み」の大地震です。それが、首都圏で起きると、大災害を引き起こす可能性がある、これが首都直下地震の本質です。
10万5千人が亡くなった、1923年の関東地震はM7・9でした。首都圏でのM8クラスの地震は、元禄時代の1703年にも起きています。一回り小さいM7クラスの地震は、1703年から1923年までの220年間に8回起きています。平均約28年に1回で、これが30年以内に首都圏のM7クラスの地震が70%程度の確率で起きるという予測の根拠です。
現在の地震学では、次にどこで地震が起きるか、予測はできません。このため、内閣府中央防災会議は、首都圏の19の震源断層を想定し、一番被害が大きくなるのはどこかを推定しました。それが都心南部直下で発生する地震です。最悪の想定で、死者2万3千人、そのうち7割が火災で亡くなり、約3割が建物倒壊などで亡くなります。
全壊・焼失する建物61万棟の予測地図をみると、山手線の外側あたりにリング状に広がっています。この地域に、木造で老朽化した住宅が広がっているためで、区部の面積の約10%に居住人口の約20%が住んでいます。この地域の耐震化が、被害を減らすうえで決定的に重要なのです。

防災科学技術研究所参与・東京大学名誉教授・平田直
※連載は9月17日の関東大震災メモリアルシンポでの講演を再構成して紹介します
(東京民報2021年10月24日号より)