渋谷区で日夜、区民のために奮闘している日本共産党の議員が多忙な中で書き続けた14の短編小説集です。
議会でどう頑張ったかとか、困っている人々をどう助けたのかの実績・記録かと思いましたが、そうではありませんでした。

1500円(税込み)
とま・こうじ 1950年、北海道小樽生まれ。日本共産党渋谷区議会議員9期。日本民主主義文学会会員
小説の登場人物は、家族、著者と関わりのあった人々。そうした人たちの人生を描いています。一人ひとりは、それぞれ長所も短所もあり、中には著者の善意を裏切った人(『消えた女』)も出てきます。
その一人ひとりの人生をきれいごととして描かず、ありのままにとらえ、その中で、「人間の尊さと愛しさ、かけがいのない」唯一無二の人生があることを見事にとらえています。
『枝幸(えさし)の町で』では、「激しい人で自分の非を認めない」赤木氏が肝臓がんで無くなったあと、著者は納骨のために北海道の枝幸町に向かいます。
赤木氏が勤めていた郵便局で「若者にはとても優しい先輩でした」と言う言葉を聞き、「枝幸の町に足を延ばしてよかった」と思い、普段は無表情なのに、ビラをうけ取ってもらえた時にニッコリした「赤木氏の笑顔」を思い出します。
アルコール依存症の人を助けられなかった著者自身の「不甲斐なさ」(『酔いどれ』)、苦い思いをかみしめた孤独死の現実(『寿美子さん』)、産みの母に「一緒に暮らそうよ」と言えなかったことを悔やんだこと(『言えなかった約束』)など、著者の弱さも率直に語っています。
14の小説のうち9作品は、親しい人との別れを描いています。
著者は、その大切な人生に寄り添いながら、「絶対にわすれないよ」(『さっちゃん』)と、その悲哀・感謝を心に刻み込みます。
中学・高校以来の古い友人の清水が亡くなってから31年。「清水の懸命な姿に励まされて生きてきたよ。八十歳まで私は、頑張り続けるよ」―清水の人生はいつまでも著者の心に残り、励ましているのです(『三十三回忌』)。
しみじみと心に残る短編小説集です。
(柏木新・話芸史研究家)
〈東京民報2023年2月19日号から〉