外苑再開発「企業の稼ぎ優先」明らかに 秩父宮ラグビー場など視察〈2023年8月6日号〉

 3000本もの樹木を伐採し、神宮球場と秩父宮ラグビー場の敷地を交換して建て替える神宮外苑再開発(新宿、港区、約28万平方メートル)で、日本共産党の田村智子(衆院比例予定候補)、吉良よし子両参院議員らは7月27日、市民グループの案内で現地を視察しました。坂井和歌子衆院比例予定候補、都議団、新宿・港両区議らが参加しました。

日本共産党 田村、吉良両議員、都議ら

日差しを浴びる天然芝のピッチを見ながら説明を聞く参加者=7月27 日、秩父宮ラグビー場(港区)
見事な人工自然美

 「同じ時期、同じ場所で育てられてきた、これら多くの兄弟木は、世にも稀なる幸福の樹木と言えましょう。今後幾百年これらの兄弟木の銀杏は、生長に生長を続けて老大成し、その偉大なる雄姿を発揮し、外苑々地と融合し、我々に見事な人工自然美を楽しませてくれることでしょう」。田村議員は視察のスタート地点、神宮外苑の青山口(港区)にあったイチョウ並木の案内板の文言を読み上げました。

 案内板には神宮外苑のシンボル、4列のイチョウ並木について、新宿御苑から採取した種子から育てたものを1923年に植栽し、約100年かけて育ててきた経緯を説明しています。いま、そのイチョウ並木が再開発によって枯れる危険が専門家から指摘されているのです。

 神宮外苑の樹木の保全を求める市民グループのメンバーが、高さ190メートルの超高層ビルや新球場の建設予定地を案内。メンバーは、葉が黄色く変色したイチョウの木を指さし、「今でも弱っている木があるのに、まともな調査もしていない。球場が建てられれば、根に深刻な影響がある」と訴えました。

専用から多目的に

 市民と議員らは、再開発と一体で建て替えるために取り壊わされる秩父宮ラグビー場を、事業者の一つである独立行政法人・日本スポーツ振興センター(JSC)の案内で視察しました。

 JSCの担当者は同ラグビー場と神宮球場の敷地を交換し建て替える計画について、都の「神宮外苑地区まちづくり指針」(2018年)で打ち出され、スポーツ庁が開催した「関係者会議」の「基本方針」に基づくものと説明。観客席を現施設より約1万席削減した上で、ラグビー以外のイベントにも使用できる屋根付き・人工芝の全天候型施設として整備することになったとのべました。

 このことが歴史的スタジアムが壊されるだけでなく、貴重な樹木の伐採・移植が必要となり、都民や専門家の強い反発を招くことになります。元日本代表の平尾剛氏が全天候型にすることで、ラグビーの競技特性が失われるなどとして、「選手にも観客にもメリットの少ない『改悪』でしかありません。そして、神宮外苑『100年の森』の破壊にもつながります」と、計画の見直しを強く求めています。同氏が呼びかけたネット署名には1万9000人が賛同。他の主な3つのネット署名を合わせると30万人を超える人が計画見直しに賛同しています。

 視察でJSCの担当者は、選手控え室やトイレ、客席などを案内。スタッフの控え室の不足、障害者用のトイレ不足、幅の狭い観客席など、施設の老朽化やバリアフリー化の遅れなど、様々な問題があることを説明。建て替えで誰にとっても良好な環境となり、ラグビー振興につながると強調しました。

天然芝が人工芝に

 スタンドに案内されると、眼下に青々とした天然芝が引き詰められたピッチが広がり、照りつける強い日差しの中でも、涼しげな印象を与えます。実際、天然芝は温暖化防止にも役立つとされています。一方、プラスチック製の人工芝は、選手のケガの要因やマイクロプラスチックなどによる環境汚染が危惧され、参加者から疑問が出されました。

 和泉なおみ、原田あきら両都議らは、2012年の森喜朗元首相と都幹部との会談が行われるまでは、2010年の耐震診断結果を踏まえて改修が検討されていた事実を指摘。会談以降、移転先と同様に観客席を1万席減らせば建て替えが可能になるかどうかの検討をしたのかとの問いに、JSCの担当者は「していない」と答えました。

 吉良議員は「検討すらしていない。移転ありきではないか。ラグビー振興といいながら、そうではない計画に見える」と指摘。和泉都議は「(新ラグビー場を)都はラグビー専用という言葉を決して使わない。ラグビーの振興、文化を広げていくには聖地(ラグビー専用)として、秩父宮ラグビー場を残すことが必要ではないか。都民、専門家の意見を聞くべきだ」と訴えました。

 またJSC担当者は、新ラグビー場の整備・運営について民間が担うPFI方式で進めると説明。ゼネコンの鹿島を代表とし、再開発全体を進める三井不動産などが構成企業に名を連ねる企業グループが、昨年8月に約82億円で落札(2位は約226億円)しています。

 田村議員は視察後「再開発は、稼ぐために一等地を企業に使わせる計画だということが分かった。都議会、国会で連携し、市民の皆さんとも連帯して頑張りたい」と語りました。  また、再開発では都民が使用できる野球グランドやテニス場、ゴルフ練習場をなくす計画。吉良議員は「市民のスポーツ振興の点からも、かけ離れている」と批判しました。視察には尾崎あや子、原純子両都議も参加しました。

市民グループから説明を受ける(右から)吉良、原田、田村の各氏ら=7月27 日、港区

批判の声は「ネガキャン」

外苑再開発で小池知事

 多数の樹木を伐採して超高層ビルを建設する神宮外苑の再開発事業を巡って、小池百合子知事は7月28日の定例記者会見で、再開発への批判に言及し、「ネガティブキャンペーン(誹謗・中傷)」だと決めつけました。またある政治的意図をもって主義・主張を強調する宣伝という意味で使われる「プロパガンダ」とも言いました。

 再開発問題を巡っては、三井不動産など事業者が提出した環境影響評価書について、ユネスコの諮問機関の日本イコモス国内委員会から虚偽があるとの指摘がされ、都の環境影響審議会が開かれました。しかし、イコモスメンバーは出席させず、事業者の一方的な説明に終わりました。また、国際環境影響学会の日本支部は、「環境アセスメントにあたり、科学的な議論が極めて不十分だった」などとして都に対し、事業者に一時工事の中止を命じるよう求めています。

 小池知事は都民・国民の批判に対して「イチョウ並木がなくなるとか緑を減らすとか事業者が言っていないことが広がった」「ネガティブキャンペーンやプロパガンダもあった」と発言。事業者の説明を容認した上で、都民、専門家の声には耳を傾ける姿勢がまったくないことを改めて示した形です。

「的外れな反論」和泉都議団幹事長

 日本共産党都議団の和泉なおみ幹事長は同日、小池知事の発言に対し、「的外れな反論で、事業認可を行った自らの責任を回避することは許されない」とのコメントを発表。「100年近い樹齢の樹木を大量に伐採する事業に専門家や国際機関から厳しい批判が出ていることを、ネガティブキャンペーンだという知事の発言に驚いている」と述べました。

 和泉氏は、神宮外苑の歴史と大量の樹木を犠牲に進める再開発計画に、反対の声はますます広がっていると指摘。「都民の理解が得られない再開発計画の中止・見直しを求め、引き続き多くの都民・国民の皆さんとともに全力を尽くす」と表明しています。

東京民報2023年8月6日号より

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