政治と統一協会 関係断つため徹底検証を 民主主義ゆがめた政界工作 編集長インタビュー*ジャーナリスト 鈴木エイトさん〈2023年8月13日・8月20日合併号〉

 安倍晋三元首相が参院選の演説中に銃撃され死去した事件(22年7月)は、統一協会と自民党などの政治家が、長年にわたり深い関係を築いてきた闇を浮かびあがらせました。事件を機に、数々の問題が明るみに出される一方で、自民党は問題の幕引きに躍起です。銃撃から1年で政治と統一協会の闇の解明はどこまで進んだのか。長年、教団の取材を続けてきた、ジャーナリストの鈴木エイトさんに聞きました。

すずき・えいと 1968年、滋賀県生まれ。日大卒。2009年創刊のニュースサイト「やや日刊カルト新聞」で副代表、主筆

 -安倍元首相の銃撃から1年を迎えました。統一協会に関する問題の現状をどう見ていますか。

 いわゆる「被害者救済」の問題をめぐっては、不当寄付勧誘防止法が成立し6月に全面施行されました。また、「宗教二世」の問題では、厚労省が児童相談所に向けた対応指針を出すなど、社会への周知が進みました。それぞれ、不十分さはありながらも、一定の前進がありましたが、最も多くの問題が顕在化したにもかかわらず、対策がほとんど進んでいないのが、政治家と統一協会の問題だととらえています。

 最も深い関係を築いてきた自民党は、現役の党内の国会議員に向けた、わずか8項目の「点検」をして、今後は関係を持たないというあいまいな区切りで、幕引きしようとしています。50数年にわたる、両者の長年の関係、統一協会や勝共連合による政治家への工作の歴史を、あの程度の形ばかりの「点検」で解明できるはずがありません。

教団の財政に焦り

 -そんななかで、現在の統一協会トップ、韓鶴子(ハンハクチャ)総裁が6月に、「日本の政治は滅びるしかない」「岸田を呼びつけて教育を受けさせなさい」などと信者を前に発言していた動画が話題を呼びました。

 教団側は「悪質な切り取り」だとしましたが、今回の発言は過去に繰り返されてきたものと、なんの齟齬そごもなく、統一協会の本来の考え方そのものです。例えば、韓鶴子は2018年にも、当時の安倍首相を指して「打ち負かす」「屈服させる」対象だと発言しています。

 ただ、今回の発言が異例なのは、「岸田」と名指しで呼び捨てにしていることです。先ほどの2018年の発言も、「その国の最高指導者」というぼかした言い方でした。教団の解散命令請求の動きなど、日本の現状への焦りが表れているのだと思います。

 -焦り、ですか。

 いま教団はかなりの財政難に陥っているんですね。分派である文鮮明の三男派との間で、韓国とアメリカで裁判をやっていて、どちらも敗訴し、韓国で700億円の賠償義務が発生しました。

 他方で、日本からの送金は、安倍元首相の事件以来、ストップしています。韓国の優良な不動産を売却するなどして、やりくりしている状況です。

 教団が深刻な資金難なのに、韓鶴子の意識のなかでは「しもべ」であるはずの日本の政治家が、教団に不利な動きをしている。そうした状況への焦りや憤りが、発言につながったのでしょう。

 重要なポイントは、あの場には、日本側の教団幹部も出席し、韓鶴子の発言を受け入れていることです。日本でいくら改革のポーズをとっても、韓国からの上意下達の構造は変わっていないことを表しています。

解散命令の現状は

 -そのこととも関わって、国による解散命令請求の現状をどう見ていますか。

 私が、文化庁やその周辺を取材している限りでは、そう遠くない時期に解散命令請求は出されるととらえています。

 かなり慎重に、多角的に、解散命令請求の要件となる組織性、悪質性、継続性を立証する材料を集めているのが現状です。ただ、今後、教団との関係を断ち切れない政治家側からの横やりの動きが起きないかは、注視が必要です。

 また、宗教法人法には財産保全の条文がないので、解散命令が確定するまでの間に、教団が資産を海外に移すことが予想されます。被害者への賠償のための資金を海外に移させないために、解散命令請求の手続きと同時並行で、財産保全のための法整備も必要でしょう。

 -鈴木さんの著書「自民党の統一教会汚染」(小学館)を読むと、統一協会が政治家に運動員となる信者をあっせんするパーティーを開いていたり、両者の関係の深さに、改めて驚かされます。

 政治家の多くは、こういう団体とは本当は付き合いたくないという気持ちはあるのだと思います。ただ、落下傘候補など地盤がない政治家にとっては、運動員を送り込み、後援会まで作って、丸抱えで選挙を応援してくれる団体はありがたくて、重宝してきた。外聞は悪いから、表向きは付き合いを隠しつつ、ギブアンドテイクの関係を築いてきたのが実態でしょう。

 教団側にとっては、文鮮明が「みことば」で、議員の秘書となり、相手の弱みを握り、最終的には自分自身が立候補するように指示しています。組織的に秘書を送り込み、意図的に政治の側に入り込んできた数十年間でした。

 教団が系統的に政界工作をしてきたことで、民主主義の根幹である選挙がゆがめられてきました。また、諸外国では当たり前のように進んでいる、LGBTや選択的夫婦別姓などの法整備が、日本では進んでこなかったことをはじめ、政策にも影響を与えてきました。

安倍ルートに空白

 -著書で、とてもスリリングだったのが、安倍元首相と教団との関係を、綿密に調査し、証拠を積み上げていく過程です。

 安倍元首相と統一協会との関係は、いくつかの空白があって、そこを埋めていく作業が今後、必要です。

 2000年代の中頃に、安倍氏は、自民党の候補者から相談を受けた際に、統一協会について「あそこはダメだ。父と祖父は仲良くしたが、じぶんは嫌いだ」という発言をしていたことが分かっています。教団の内部資料には、すでに安倍氏の名前が出ていた時期です。

 他方で、2013年の参院選では、安倍氏が教団側に組織票を依頼していたことが、裏付けられています。この数年間に、何があったのか。民間ルートや政界ルート、さまざまな人たちがかかわり、安倍氏への働きかけが行われたと想像できます。

 いま、自民党は、安倍さん一人に責任を負わせて、この問題を終わらせようとしている節もあります。“統一協会は安倍さん案件だった”という形で、終わらせようとしているのだとしたら、「政治家として、恥ずかしくないのか」と思います。どのように、自民党や安倍氏が、統一協会と関係を深めてきたのか、きちんとした解明こそ、やるべきことです。

総選挙自民党の「幕引き」も争点

「政治とカルトの関係を断つ総選挙に」

 -統一協会問題が下火だった時から、ずっとこの問題を追ってこられました。

 2002年に、渋谷の街で、統一協会による手相の勉強を装った勧誘を見かけて、割って入って止めたのがきっかけでした。最初は勧誘を論破するのが楽しくて、やっていたようなところがあるのですが、次第に、いまは勧誘されている被害者が、いずれは勧誘する加害者の側になり、新たな被害者を生み、人生も奪われてしまうという、カルト問題の構造に気付きました。

 単純に自分が問題だと思うことを追い続けてきただけなので、現在のように、多くのメディアが一緒にこの問題を追及してくれるようになって、自分が掘り起こせなかった問題にも光が当たるようになったことを、本当にうれしく思っています。

 これまで数万人、ひょっとしたら10万人くらいを勧誘から救出してきたと思いますが、私自身が、テレビなどで顔が知られるようになり、「あの時に、自分を救ってくれたのは、あなただったんですね」と連絡をくれる人もいたり、かつては街頭でやりあっていた元信者が連絡をくれたりもします。嬉しいですね。

 -秋にも総選挙と言われます。統一協会の問題について、選挙で問われるべきことは。

 たまたま知らずに教団関連のイベントに参加してしまったというような政治家はともかく、長年、意図的に教団との関係を持ってきた政治家には、有権者にその事実を正直にきちんと示したうえで判断を仰ぐ、その責任を果たしてほしいと思います。

 自民党がこの問題をあいまいにしたまま幕引きしようとしている、そのこと自体も、争点として問われるべきことです。

 私たちも、どの政治家が統一協会とどんな関係を持ってきたのか、データベースをつくって、有権者の投票判断の材料として提示したいと準備しています。

 政治と統一協会の関係は長年、培われてきたものなので、中途半端な形で終わらせてしまうと、容易に元の形に戻ってしまいかねません。政治とカルトの関係をきちんと断つ、その出発点となる総選挙になってほしいと思っています。

東京民報2023年8月13日・8月20日合併号より

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