時を超え愛される乱歩 生誕130年 立教大が邸宅を再整備〈2023年12月31日・2024年1月7日合併号〉

 モダンで都会的なムードの中に、頽廃的で耽美な幻想世界が極彩色で薫り立つ作品を数多く生み出した、日本ミステリー小説の父として知られる作家・江戸川乱歩。日清戦争が始まった1894(明治27)年に三重県名張市で生まれ(10月21日)、太平洋戦争を生き延び、1965年(7月28日)に70歳で豊島区池袋の邸宅で没しました。2024年は江戸川乱歩、本名・平井太郎の生誕130年にあたります。

作家仲間や編集者たちが集った応接間で 乱歩の孫・平井憲太郎さんが解説=12月15日、豊島区

 2002年から、旧江戸川乱歩邸宅と書庫の土蔵(豊島区指定有形文化財)の維持管理、乱歩の膨大な蔵書や関連資料の保存・研究・公開を行ってきた立教大学(豊島区)は、老朽化が深刻な乱歩邸の改修工事「旧江戸川乱歩邸施設整備事業」を、立教学院創立150周年事業の一環として実施することを決定。2024年10月のリニューアルオープンを目指して2023年12月15日、旧江戸川乱歩邸クロージングセレモニー「乱歩を未来につなぐ」を行いました。

歴史的にも価値が
乱歩が大変気に入っていた土蔵。書斎兼書庫として愛用した

 旧乱歩邸は、生涯で46回もの転居を繰り返した乱歩が、1934年から没年まで腰を落ち着けた場所。もともと母屋は1921(大正10)年、土蔵は1924年に建築されたもので、乱歩が自ら間取りを描いた洋館の増設、「幻影城」と呼ばれる土蔵の修復工事、母屋などのメンテナンスを行ってきましたが、経年劣化は免れません。

 セレモニーに出席した乱歩の孫、平井憲太郎氏(73)は、「私たちも2000年の初めまで住んでいましたが、雨が降るとバケツを持って家族が家の中を走った」と、振り返りました。

 戦時中は空襲で豊島区も焦土と化しましたが、乱歩邸と立教大学の本館は奇跡的に焼け残りました。乱歩邸は建築史や風俗史の観点からも貴重な存在であり、大学は限りなくオリジナルの構造を維持しながら、資料展示スペースの充実、書架の新規設置、書斎の再現など、より利活用しやすい空間を展開する予定です。

土蔵の2階。和書のコレクションを手書きで美しく整理している

旧江戸川乱歩邸
問い合わせ:立教大学江戸川乱歩記念大衆文化研究センター
電話:03-3985-4641
rampo@rikkyo.ac.jp

「夜の夢」を、まことと 

作家・鶴岡征雄さんに聞く

 江戸川乱歩の作品が時代を超えて読み継がれる理由のひとつは、相次いで生み出される多彩な二次創作の存在。乱歩は二次創作・二次使用に寛大で、映画や演劇、歌舞伎、アニメ化など、作品が再解釈されることを面白がっていたといいます。創造されて拡張した乱歩的世界に魅了され、原作に回帰する現象は現代的であり、興味深い見地です。

 2023年11月に発行された『探偵 明智小五郎 江戸川乱歩傑作選』(本の泉社)の解説を書いた、作家で民主主義文学会会員の鶴岡征雄(ゆきお)氏に、作家の立場から江戸川乱歩の魅力を考察してもらいました。

 鶴岡氏は、乱歩の人物像を「エキセントリック」と評します。乱歩は早稲田大学卒業後、大阪の貿易商社に入社しましたが、約1年で出奔。その後も、多くの職を転々としました。「判を押したような生活が、まったく性に合わない。代表作『屋根裏の散歩者』の登場人物、郷田三郎のセリフ〝どんな遊びも、どんな職業も、何をやってみても、一向この世が面白くない〟-これはそのまま、デビュー前の乱歩に重なる」と推察。乱歩が好んで色紙に書いていた「うつし世はゆめ 夜の夢こそまこと」という言葉につながるのではないかと語ります。現実は夢のようにはかなく、乱歩にとっては夢の中こそ本来の自分で息ができる世界だったのでしょう。

 一方で、「自分の興味を感じるものに対しては、徹底的に掘り下げる。世界の探偵小説をむさぼり、研究家といってよいほど勉強する。探偵作家クラブ(現・日本推理作家協会)を創立し、推理作家の登竜門となる江戸川乱歩賞を自身の寄付金で制定するなど、後進の面倒見がよいところも特色でしょう」と鶴岡氏は指摘します。

 1923年に29歳で作家デビューし、4年間で代表作の大半を矢継ぎ早に発表。しかし、自身の作品に嫌悪感を抱いて休筆し、放浪の旅に出ることも度々ありました。

 1939年警視庁検閲課に「芋虫」が削除を命じられ、その後、乱歩自身が著書を絶版。原稿の依頼も途絶えました。「とてもこたえたのだと思います。自分の作品が自由に発表できない日本に嫌気がさし、数年間休筆した。谷崎潤一郎や永井荷風も、戦争中に筆を止めた。そのようなきっぱりとした態度が乱歩らしい」

 谷崎潤一郎は、乱歩が敬愛する作家のひとり。乱歩が死去した2日後に、谷崎も亡くなっています。

 「乱歩の探偵小説は、探偵が推理して犯人を追い詰めていくというよりも、犯人の視点から事件を追っていく。それも面白いよね」

鶴岡征雄(つるおか・ゆきお)
1942年茨城県龍ヶ崎市生まれ。作家、日本民主主義文学会会員、大田文化の会事務局長。『單線駅舎のある町で』(本の泉社)など著書多数。舞台のプロデュース主催公演やジャズ演奏会の主催などでも活躍。

東京民報2023年12月31日・2024年1月7日合併号より

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