究明は次の事故防ぐため 元JAL機長 山崎秀樹さんに聞く〈2024年1月21日号〉

 羽田空港での、航空機同士の衝突事故は航空の安全をめぐる、さまざまな問題を提起しています。JALの元機長で、JAL被解雇者労働組合(JHU)書記長の山崎秀樹さんに聞きました。

ヘッドアップディスプレイの図を説明する山崎さん

 ―事故の受けとめは。

 海上保安庁の隊員に犠牲者が出たことは本当に残念ですが、ほぼ満席に近いJAL機は、けが人は出たものの、死者はいなかった。不幸中の幸いで、本当に良かったと思います。

 運航乗務員は常に、様々な事故の事例や事故報告書などをもとに、どうやったら事故を防ぐことができたのかを考え、チームで議論するなど、経験を積み上げていきます。今回の事故も、当事者がよくやったことは前提に、事故を防ぐことはできたのではないかと考えることが重要です。

 ―それぞれについて、お聞きします。まず、パイロットについては。

 今回の事故機が、ヨーロッパ製のエアバスA350だったことに注目しています。

 JALは長年、ボーイングなど米国製の機体を使ってきており、エアバスの運航を開始したのは4年前です。今回は、副操縦士が機種移行訓練で右席操縦していて、機長は左席に座っていました。

 エアバスにはJALの機長が長年、親しんできた操縦桿がなく、サイドスティックで操縦します。スイッチの方向や、機材の呼び方など、設計の考え方もまったく違う。慣れていない機体の操縦を学ぶ訓練をしていて、注意が滑走路に向きにくい状況のなかで、侵入した海保機に気付くのが遅れた可能性があります。

 また、この機種には、操縦計器を正面の窓の部分に表示する機能(ヘッドアップディスプレイ)があります。この計器の表示が、滑走路上の機体を見にくくした可能性の検証も必要です。

 後方座席に座っていたサードパイロットは、滑走路全体を見通せる位置にいました。海保機を見つけられなかったのはなぜかにも注目が必要です。

 ―誤進入した海保機に気づく可能性はあった、ということですね。

 関連するICAO(国際民間航空機関)のデータを紹介すると、2022年、2023年ともに滑走路への誤侵入は年間に1700件起きています。そのうち6割、1000件以上が、今回と同じ「パイロット・デビエーション(逸脱)」と呼ばれる、パイロットの誤認識などが原因です。

 つまり、世界の空港で1日に3件ほどはこうした事例が起きていますが、その多くが事故につながらず、回避されています。ICAOの分析で、事故を回避できた理由がはっきりとしているもののうち、一番割合が高いのが、約3割を占める着陸機によるゴーアラウンド(着陸をやり直すこと)です。

 日本航空機は、今回の事故を回避する最後の砦でした。着陸前に滑走路の確認をどこまでやったのか、その点は、究明すべきことです。

 ―客室乗務員は。

 満席に近い乗客を全員、退避させた。これは素晴らしいことです。

 そのうえで、退避まで18分の時間がかかったことの検証は必要です。

 航空機は、満席でも全員の退避が90秒でできるよう設計されています。今回のように8個のドアのうち3つしか開けなかったという場合でも、もっと早く退避できたのではないかと考える必要があります。

 もう一つ、指摘するべきなのが、客室乗務員の配置の問題です。今回は9人の客室乗務員が乗っていましたが、本来のJALの、当該機種に対する配置数は8人で、運航経験の浅い若手が多数乗務していました。

 3人がベテランの客室乗務員で、今回、ドアが開いたのは、いずれもベテランが担当したドアだったといいます。

 客室乗務員は、総務省の分類では飲食物給仕従事者という扱いですが、乗客の命と安全を守るための保安要員であることをはっきりと示したのではないでしょうか。航空従事者として位置付けるべきです。2010年大晦日のJALの整理解雇では、経験を長く積んだベテランの客室乗務員から解雇しましたが、その問題点も改めて思わざるをえません。

 JALの客室乗務員の編成計画を見ると、ドアの数より、客室乗務員の最少編成数が少なくなっている機種があります。労働組合も、ずっと1ドア1人以上の配置を求めており、早期の実現が今回の事故の教訓です。

健全な労組の役割が重要に

 ―管制官については。

 業務の過重を指摘せざるを得ません。

 国公労連の資料によると、公務員の削減が続く中で、管制官は2004年から2023年の19年間で827人(16.7%)減だといいます。航空機の運航は1.5倍に増えており、23年の運航数がコロナ禍前に戻ると仮定して管制官一人当たりの運行数を計算すると、2004年の933機が、23年は1682機と1.8倍に増えています(グラフ)。

 とりわけ羽田空港は、都心飛行ルートの導入による増便で、超過密です。今回も、一つの滑走路で着陸と離陸を同時にやっていたことが、事故につながりました。

 ―今後の事故調査や対策に求めることは。

 国際民間航空条約第13条の付属書には、「事故調査の唯一の目的は、将来の事故または重大インシデントの防止である。罪や責任を課するのが調査活動の目的ではない」と書かれています。

 これは罪や責任を追及しないということではなく、事故調査を優先にして、罪や責任の追及とは分離して扱いなさい、ということです。

 日本では、運輸安全委員会と警察が覚書を結んでいて、運輸安全委員会の調査結果が警察の捜査や裁判に利用されることになっています。

 二度と事故を起こさないという公益のために、警察の捜査と、事故原因の究明をきちんと分けることが必要です。

 もう一つ、言いたいのは、今回の事故が単独で起きたわけではないということです。JALはこの間、乗員や整備、地上作業者などによる事故や重大インシデントを相次いで起こしており、現状は非常に危機的です。

 企業が効率や利益を追求するなかで、健全な企業経営を守るには、健全な労働組合、声をあげる労働者の存在が不可欠です。航空の安全を守る、労働組合の役割がますます重要です。

東京民報2024年1月21日号より

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