今こそ必要な科学的思考 『ロウソクの科学』 マイケル・ファラデー 著 竹内敬人 訳〈12月20日号より〉
- 2020/12/21
- 書評
今日の社会では、科学の大切さを熟考させられます。コロナから国民の命と暮らしを守るためには、科学的視点と、政府のすばやい対応が求められます。また、菅首相による日本学術会議会員の任命拒否は、国民の自由と民主主義にかかわる重大問題ですが、科学者を否定する国には未来はありません。二酸化炭素などによる地球温暖化問題も重大です。

ふと頭に浮かんだのは、若い頃に愛読し、科学と真実を極める科学的な考え方の大切さを学んだファラデーの『ロウソクの科学』です。
この著作は世界的に有名で、日本でも各社から和訳が出版されています。今回、岩波文庫の新訳(2010年版)を読み直してみました。訳注も丁寧になり、図版もさらに充実しています。
科学者であるファラデーの「少年少女の聴衆のためのクリスマス講演」の講義録です。
ロウソクはどうやって燃えるのか、燃えたロウソクはどこへ行ったのか、ロウソクを燃やすと水ができるのはなぜか、ロウソクの中の水素と酸素、炭素、二酸化炭素の性質はどうなっているのか、人間の呼吸と燃えるロウソクの共通点は何かなど、燃焼時に起こる様々な物理・化学現象を、実験内容を紹介しながら丁寧に説明しています。
どんな不思議な現象にも科学的根拠があることがよくわかり、科学的思考が培われます。
落語の「死神」という演目では、落語的比喩でロウソクが燃え尽きるのが人間の寿命とする場面がでてきます。落語とは違ってファラデーは、「ヒトと小ロウソクの生命とは、別に詩的な意味だけでなく、本当に関係しているのです」と科学的解明をしています。どう解明しているかは本書をお読み下さい。
著作の最後に、ファラデーは若い人たちへ、「ロウソクのように世界を照らしてください」とメッセージを送っています。若い方にも年配の方にもぜひとも読んでほしい一冊です。(柏木新・話芸史研究家)
(東京民報2020年12月20日号より)