関東大震災から9月で100年。震災発生直後から「朝鮮人が、暴動を起こした」「井戸に毒を入れた」などのデマが流され、朝鮮人・中国人や労働活動家などが軍隊や警察・民間人の自警団によって虐殺されました。新宿区の高麗(こうらい)博物館では7月から12月まで、企画展「関東大震災100年 隠蔽された朝鮮人虐殺」が開催されています。高麗博物館を吉良よし子日本共産党参議院議員、坂井和歌子同党比例東京予定候補と訪ねました。
朝鮮人虐殺の企画展
企画展は韓国の植民地歴史博物館の協力も得て、韓国中国両国による真相究明にもスポットを当てます。期間中は関連企画も多数予定されています。
虐殺伝える絵巻物
館に入ってすぐ目に入るのが、ガラスショーケースに飾られた今回の企画展で初めて公開された「関東大震災絵巻」。震災の2年半後に描かれたもので、2巻合わせて30メートルを超えるものです。
肩から血を流し倒れている人や、必死に逃れようとしている人物にこん棒や刀を持って襲い掛かる軍人や警察の表情まで読み取ることができます。
吉良議員は「こんな超大作が、100年経ったとは思えない綺麗な状態でよく残っていましたね」とじっくり見入りました。
官民一体の虐殺
企画展では、虐殺の過程も詳細に説明しています。震災当日の9月1日には、自警団による虐殺が始まりました。2日には警官たちが「朝鮮人が井戸に毒を入れた、放火した」などと流言を言いふらし、夕方には戒厳令が敷かれます。3日には国家の治安組織中枢である内務省も「朝鮮人の取り締まり」を命じます。新聞各紙もデマを積極的に報道しました。流言は東京から関東全域に広がり、各地の民間人で組織された自警団が家庭から日本刀やとび口、竹やりなどを手に虐殺に加わっていきました。
保護を理由に朝鮮人を移送する途中で軍が射殺、移送後の朝鮮人を地域住民に引き渡して殺させたなどの目撃証言が数多くあります。
内務省は朝鮮人暴動の事実がつかめず事態の収拾に努めますが、扇動的なデマが優勢となり、9月の上旬まで虐殺は続きました。
戒厳令が発令された背景には、1910年の韓国併合以前から続く植民地支配に対抗する民衆を、日本は「不逞ふてい鮮人」として弾圧の対象としてきた歴史があります。虐殺は、朝鮮人暴動を恐れた官僚・軍人の恐怖心と日本人の朝鮮人差別意識の延長に起きたのです。
坂井氏は「差別を助長した政治の責任は極めて重く、現在の社会・教育において、もっと大きく扱われるべき問題だ」と感想を語りました。
実態解明なく百年
当時上海にあった大韓民国臨時政府機関紙『独立新聞』の調査では、犠牲者は6661人と数えられていますが、日本政府の司法省は233人と発表しています。
司法省が立件したのは民間人による虐殺のみで、軍隊や警察については1人も処罰されませんでした。政府は、事件の調査、発覚を恐れて、死体を掘り起こして持ち帰るなど、証拠隠滅を図りました。
中国人犠牲者は帰国した留学生によって詳細な調査が行われ、750人超の死傷者が判明しました。遺族の謝罪要求に、日本政府は誠実な対応をしていません。
植民地下にあった朝鮮人は、名前も殺された場所も人数すらも明らかになっていません。
こうして犠牲者の実態も政府の責任も明らかにされないまま100年が経とうとしています。
一方で、市民の手で犠牲者を追悼し歴史を継承する動きが各地で起きています。
しかし、「虐殺はなかった」と歴史を否定する声が排外主義とともに大きくなっています。教科書の記述削除、ヘイトスピーチの頻発、そして墨田区の都立横網町公園で毎年開催されている追悼式典への、小池知事の追悼文送付取りやめです。自民党都議による虐殺を否定する都議会質問がきっかけでした。追悼文送付をやめた年から、追悼式典を妨害する集会が、同時間・同敷地内で開かれるようになりました。
さらに高麗博物館の今年のイベント(5面に詳報)は、新宿区の後援が認められませんでした。区は「区の施策の方向性と異なる」と回答。博物館は今後話し合いを続けていく予定です。
小池知事の態度が職員に虐殺の否定を内面化させ、トップダウンの差別主義の危機が広まったことで、こういった事例が続いていると同館は警鐘を鳴らします。
「あったことを否定するのは2度目の虐殺になる」というスタッフの熊谷陽子さんの説明に、吉良氏は大きくうなずきながら、「100年前で止まったままの負の感情、差別の連鎖を断ち切ることが求められている。差別は表現の自由などではなく、人の命を奪うこともある」と、罰則つきの差別禁止法の必要性を語りました。
関東大震災
1923年9月1日午前11時58分に発生した最大震度7、マグニチュード7.9の大地震。東京・横浜を中心に死者・行方不明者は推定10万5000人(うち9万2000人が直後に発生した火災で死亡)、被災した住居は総計37万棟と、明治以降の日本の地震被害としては最大規模。
*明日は前高麗博物館館長の新井勝絋さんの講演をご紹介します。
東京民報2023年8月13日・8月20日合併号より