日本は「男尊女卑依存症」内面化した価値観、自覚を ソーシャルワーカー・斉藤 章佳さん〈2023年8月13日・8月20日合併号〉 

 アルコール依存症を始め痴漢や盗撮、DVなど統計的に男性が多いとされる依存症問題で、多くの当事者の治療にかかわってきたソーシャルワーカーの斉藤章佳さん。これまでも『男が痴漢になる理由』『盗撮をやめられない男たち』などの著書が話題になってきました。さらに今年6月、満を持して『男尊女卑依存症社会』を出版。新刊への思いを聞きました。

さいとう あきよし 1979年生まれ。精神保健福祉士・社会福祉士。大船榎本クリニック精神保健福祉部長

 -「男尊女卑」という大きなテーマで本を出されたのはなぜでしょう。

 斉藤 性暴力やDV の問題に長年関わってきて加害者の大半が男性で、その背景にある価値観として、女性を物化するという共通の現実の捉え方があることに気づきました。形容する言葉が色々ありますが、一番しっくりくるのは女性蔑視を背景とした「男尊女卑」という言葉でした。最近では、ジェンダーギャップという言葉が使われますがそれは生ぬるいように感じます。

 やはり”男尊女卑”が一番彼らの行動原理を支えている価値観としてしっくりきます。性犯罪は、性を使った暴力であり背景にこの価値観が存在しています。

 2017年出版の『男が痴漢になる理由』の頃から、男尊女卑という言葉を意識的に使ってきました。ただ彼らも生まれた時から、こういう価値観を持っていたわけではなく、日本社会の中で学習し、内面化していったのでしょう。

 私は「男だから、長男だから、跡取りだから」と言われて育ち、子ども時代には生まれた時点で人間の価値が決まるとどこかで思っていたのです。当院の理事長に「この言葉に拘るのは君の中に男尊女卑の価値観が根強く残っているからじゃないか」と指摘され自覚するようになりました。

 このテーマにした本当の理由は私を支えている根っこにある価値観が男尊女卑であるという気づきがあったからです。だからこそ男性に読んで欲しいと思います。

 -具体的な体験は。

 斉藤 DVや性暴力の加害男性の話を聞いていると、認知がすごく歪んでいます。「被害者にも非があった」や、「相手が望んでいた」と真顔で主張します。「自分は逆に被害者で、被害に遭った相手の方が悪い」と言い、被害者に責任を転嫁します。これを加害者臨床の中では”被害者の自責と加害者の他責”という言葉で表します。

 加害者更生プログラムは必ず男女のペアで進行役を行いますが、スタッフ同士のコミュニケーションから相手を尊重する対等な関係性ってどういうことなのかを直に見て学んでもらいます。

 その中で男性スタッフが話す時と女性スタッフが話す時で彼らの態度が明らかに変わることがあります。言葉で攻撃するわけじゃなく、態度で「男尊女卑」を表現します。私が話す時はメモを取って首がもげるぐらいうなずいているのですが、女性のスタッフになると舌打ちしたり、首をかしげたり腕や足を組んで何か一瞥いちべつするような、顔も明らかに不機嫌さを出すのは共通しています。

 男性が話す時と女性が話す時で、脳の中にある男尊女卑のスイッチが自動的に切り替わる。これは性暴力やDVの加害者だけではなくて、日本のあらゆるところで見られる光景です。

 -根深い問題です。

 斉藤 我々が生きている日本社会で前提となっている価値観が大きく影響していて、多くの人の生きづらさにも根強く影響しています。私たちは男尊女卑的な価値観を、家庭、学校、メディア、社会の4つから毎日シャワーのように浴びていて、無意識のうちに学習し内面化していきます。男性の中には、この価値観の中で生きることが呼吸をするほど当たり前になっており、わざわざ反応しない人もいます。

 一方で女性は日々その価値観に虐げられ痛みを感じているので敏感に反応するのでしょう。男性と女性では見ている世界が違います。DVは典型で、片方は萎縮して「はいはい」と相手を逆なでしないように迎合的にふるまうよう努力しているのに、片方は自分に賛同していると思い込んでいます。

男性も生きにくい

 -「男らしさ」問題の弊害はどうでしょうか。

 斉藤 世の男性全てが勝ち続けることはできません。長時間労働をいとわず自己犠牲的に働き続けて過労死をしてしまうとか、うつ病になり自殺する人は多くいます。

 日本の自殺者数は世界1位で圧倒的に男性が多いです。それは「男は弱音を吐くな」と言われ続け、助けを求めるのは弱い人間のすることで男らしくないとされている。やっぱり幼い頃からの、有害な男らしさの刷り込みは大きくて、本当に最後の最後まで誰にも助けを求められずにいる人は少なくないです。

 そんなことで自ら命をたってしまうなら、さっさと「男らしさ」のパワーゲームから降りた方が楽ですよね。少なくとも家族は自殺なんて望んでいない。どんな状況であっても生きててくれればいいと思いますからね。

「刑法改正が実現したことを見て も、社会は”変わる”ことができます」

 -この日本の男尊女卑依存症に処方箋は。

 斉藤 この国は男尊女卑依存症社会だとまず認める必要があります。認めたがらないですよね。この前G7の男女共同参画の会議ではホスト国の日本が真ん中で男性。他の外国来賓は全員女性で、本当に風刺画みたいでした。これが当たり前すぎて…。

 日本のジェンダーギャップ指数では政治・経済分野が最低ランクなのに、それを意識することもないから、全く引っかからないのでしょうね。

 暗たんたる気分になりがちですが、2023年の性犯罪刑法改正は大きく変わりました。2017年の110年ぶりの改正に引き続き、今回の改正では不同意性交等罪に名称が変わりました。「同意」という言葉が入るなど画期的です。2019年に性犯罪無罪判決が4件出て、「これはもう黙っていられない」と、全国各地でフラワーデモが起きて世論が形成され、その4件中3件が高裁で覆りました。そこからの連続した動きの中で今回の大きな改正があり、さらに5年後にまた見直すとなりました。

 だから”変わる”と思います。自分たち世代から変わっていけば、少しずつ男尊女卑の濃度が薄まってくるのではないでしょうか。

亜紀書房 1760円(税込み)

東京民報2023年8月13日・8月20日合併号より

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