街角の小さな旅19 満開の桜を日本画で楽しむ 郷(さと)さくら美術館と目黒川〈3月6日号より〉

 郷さくら美術館は東急東横線・東京メトロ日比谷線中目黒駅を降りて、目黒川をわたったすぐ先にあります。

郷さくら美術館

 美術館は現代の日本画作家の作品を収蔵。「満開の桜を日本画で楽しんで頂く」というコンセプトにもとづいて、桜をモチーフにした大型の作品十数点を常設で展示(特別展では非展示)しています。

 桜の花を刻んだ黒の装飾壁でおおわれた斬新な建物が美術館。年に5回程開催される企画展など、日本画を愛好する人で賑わいます。

 3月8日からコンペティション形式で選ばれた若手日本画家の作品を展示する「第9回桜花賞展」と満開の桜の作品だけを展示する「桜百景」(常設)展が開催されます。

 「桜百景」展では毎年、屏風絵など東北の桜や目黒川の桜などを描いた大型作品が展示されており、今年は福島県の三春町の瀧桜や奈良吉野の桜などが展示されます。

 日本画は日本の近代化の過程で、油絵による洋画が日本の伝統美術を席巻。これに対抗する形で、日本美術学校を創設した岡倉天心などによる日本伝統の美術復興運動が生みだしたものです。

 日本画という概念は岡倉天心が師事したアーネスト・フェノロサが使った「Japanese Painting 」が定着したもので、フェノロサは日本美術の特徴として「写真のような写実を追わない」「陰影が無い」「鉤勒(輪郭線)がある」「色調が濃厚でない」「表現が簡潔である」ことをあげました。

 岩絵具や胡粉などの天然顔料で描く日本伝統美術だからこそ花鳥風月、淡くはかない桜の花の世界を現出することが出来るのかも知れません。

目黒川の桜

 目黒川は、かつて川が削った崖線に沿ってゆるやかに蛇行して流れる川で、流域には水車小屋があり、子どもたちが魚取りや川遊びに興じていたのどかな場所でした。

  その目黒川は暴れ川でもあり、たびたび氾濫。

目黒川の桜

 そのため護岸工事が繰り返され、蛇行の姿を消し、川底が深く掘り下げられた今日の姿になりました。また、かつての舟入場(中目黒)から下流は運河として川幅が広げられました。

 全国一と言われる桜はその護岸工事にあわせて植樹がおこなわれてきたもので、1300本を超えるソメイヨシノが河口近くの昭和橋(品川区)まで続き、上流部では桜のトンネル、舟入場公園からの下流では船からの満開の桜の花見。そして風に舞う花吹雪、川面の花いかだも目黒川ならではの楽しみです。

目きり坂

 美術館から西郷山通りにでると目きり坂という変わった名前の坂に出会います。近くに臼の目きりをする人がいたことから名付けられたと言われています。昔のかまくら道で坂の上には歌川広重の名所江戸百景「目黒元不二」にも描かれ賑わった富士山を望む富士塚がありました。富士塚は人気があった富士山参詣登山にいけない人のために富士山の溶岩を積み上げてつくられた塚です。

旧朝倉家住宅

 また、古い道しるべがあり「右 大山道 左 祐天寺道」と刻まれています。大山道は現在の国道246号で、相模の大おお山やま詣もうでの往来で賑わった街道。祐天寺は徳川家にゆかりをもつ名刹。ちなみにかまくら道は鎌倉に向かう時に使われる呼称でした。

旧朝倉家住宅

 道しるべの向かいに国重要文化財の旧朝倉家住宅があります。邸宅は20世紀初頭に崖線の斜面を利用して建設されたもので、今日に残された数少ない関東大震災前の和風住宅。庭園は斜面を利用した回遊式庭園です。

西郷山公園と菅刈公園

菅刈公園の復元庭園

 西郷山通りをすすむと西郷山公園と菅刈公園があります。この場所は江戸期に九州・岡藩主が抱え屋敷(幕府から受領の屋敷でなく自分で購入した別邸)を構え、回遊式庭園が江戸の名所として知られたところ。のち、西郷隆盛の弟・従道が住居を構えたことから西郷山と呼ばれるようになり、冬の西郷山公園からはビルの向こうに富士山を望むことができ、菅刈公園には復元庭園があります。

(東京民報2022年3月6日号より)

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