【書評】ゆるく豊かな日本人の性 『ジェンダーレスの日本史 古典で知る驚きの性』 大塚ひかり 著

 男は男、女は女と生きて来て、その性差の壁が徐々に崩れて来たかと思われる昨今、では昔、その壁が堅牢であったかというとそうではなく「日本に関する限り太古の昔の方が性差が未分化な部分、性による役割分担があいまいであった側面がある」と著者は言う。

 日本の古典文学には男と女の境が曖昧な話が多数ある。そんな事例を紹介しつつ、西洋についてはザビエルやフロイスなどの書簡をひも解き、日本の古代から中世の性のありように分け入る。

中央公論新社 2022年
990円(税込)
おおつか・ひかり 1961年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部日本史学専攻卒。古典を題材としたエッセイを多く執筆

 例えば、神話には子を産む神や、性別不明の神もいた。万葉集では男同士の相聞歌があり、土佐日記は男が女に仮託して日記を書くなど、男→女、女→男と越境できる思想があったのではないかと。たしかに白拍子は女が男装していて、歌舞伎は男が女を演じる。現代において女が男を演じる宝塚はその延長か。著者はここに日本の性の境界の曖昧さを見る。その背景には「政治も経済も男女同格、女の財産権が強かった」母系制を指摘、それが平安末期まで続いたとみる。もちろん、夫婦別姓でした! ちなみに明治31(1898)年、明治民法によって夫婦同姓になったのです!

 そしてもう一つの視点が「性のゆるさ」。シングルマザーだらけ、2度3度の結婚は当たり前、LGBTも「認識」されていた。「とりかえばや物語」はトランスジェンダー、「わが身にたどる姫君」はレスビアンの話。キリスト教の宣教師から見れば坊さんが妻子をもち、男色もありとは驚がくものだった。

 著者は「なんてたって日本は、国が編纂した正史である日本書紀に、神々のセックスによって国土が生まれたとされるお国柄」としつつ、そこには「人を増やし人を結びつける性を重視し良きものとするスタンスであった」のではと言う。

 日本には豊かな古典文学の世界があり、そこには日本人の生と性が息づいている。当然、封建制度のもとでは自由も快楽も権力者のもの。前近代の封建制下での性的少数者の生きにくさは現代に通じる。生も性も人権あってのもの。表紙はマンガチックで楽しそうだが描かれた世界は重い。あえて軽く行こうよというメッセージか。(なかしまのぶこ・元図書館員)

〈東京民報2023年2月19日号から〉

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